グスタベルグは、幼い時分に父と旅したことのある場所だ。乾いた風や土煙の匂い、荒々しい岩肌の感触に、少年時代の記憶が呼び起こされた。
バストゥークの街を発った日から、何度目かの日没が訪れようとしていたが、私は既にそれを数えることをやめていた。荒涼とした大地を一歩一歩踏みしめながら、ある時ふと気づいたからだ。
ただひとり放浪を続けるだけの男にとって、今日が旅の何日目であるかを確かめることに、何の意味もないのだと。
それでも、夜ごとに姿を変えて現れる月だけは、半ば一方的な感じで、私に時の流れを思い出させてくれた。北天にひときわ明るく輝く星は、進むべき方角を静かに示してくれた。
果てしなく続くと思われた荒野の旅も、終わりに近づいてきた頃のことだった。
父との旅を懐かしんで訪れた北グスタベルグの名勝「臥竜の滝」の下で、私はひとりの女に出会った。
どうやら商人らしいその女は、辺りではあまり見かけることのないミスラだった。
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