出来事
昔、ある村で仔猫を拾った少年がいた。彼の母親は優しかったが大の猫嫌いで、連れ帰っても飼えないことは分かりきっていた。そこで彼は一計を案じ、まんまと仔猫を家族の一員に迎えてしまったという。

「東の彼方にある、子供だけの国。猫の女性が子供たちを守っている。そこは星の大樹が育む魔法の国」

少年が利用したのは、旅の吟遊詩人が教えてくれた歌だった。

言うまでもなく歌われているのは実在のウィンダス連邦だ。しかし当時の大陸間の交流は今と比べ物にならず、タルタルやミスラについて詳しく知っている村人はいなかった。

彼は仔猫を抱いて母親の前に立つなり、こう言ったのだ。

「ミスラの赤ん坊を拾った」

ビックリしたのは母親のほうだ。ウソと決め付けられないし、本当だったら放っておけない。悩みに悩んで、家族同様にもてなすことにした。

してやったりと少年がほくそ笑んだ1年後。仔猫は無事5つ子を出産し、ニャアと鳴く家族の正体がばれたという。

最後のオチはともかく、まだ闇の王の勢力がヴァナ・ディールを席捲する前にあった話である。

今では笑い話のひとつになっているが、当時はそんな時代だったのだろう。国家による対話など考えられなかったのだから。

我々は、この当時の人々より多くの真実を知っている。

だが、今の我々がヴァナ・ディールの全てを知っているわけではない。我々の生活を支えているクリスタルだって、その原理は不明のままだ。

これからまた何十年か経って人々が我々の時代を振り返るとき、やはり我々は気づかぬ過ちを笑われてしまうのだろうか?

どうせなら大笑いされたい。
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