北グスタベルグの滝で、ミスラの商人と別れてから、数日が経っていた。
それまでの乾ききった大地は、いつからか、ところどころ青々とした若草に覆われ始めていた。
砂混じりの地面も、くたびれたブーツを湿らす朝露さえも、荒野を歩き続けてきた私には、何だかとても新鮮に感じられた。
小径ですれ違った冒険者風の若い男に尋ねると、そこがコンシュタット高地の入り口であることを教えられた。男の言うとおり進んで行くと、程なくして見渡す限りの草原に出た。
目の前に広がっていたのは、楽園を思わせるような光景だった。色とりどりの花模様が織り込まれた若草色の絨毯の上に腰を下ろすと、長旅の疲れも癒されるような心地がした。
しかし、おちおちと眠れる場所でもないことを私は知っていた。
この地は標高が高く、天気も変わりやすい。特に濃霧が立ちこめる夜は体の芯まで冷える。ミスラの商人にマントの1枚でも譲ってもらうべきだったと、私は大いに後悔した。
案の定、あっという間に暗い雲が空を埋め尽くし、雷鳴が轟いた。
その時、遠くから悲鳴が聞こえた気がして、私は振り返った。何か小さな影が動いたように見えた。
|