読み物ヴァナ・ディールの女たち



コンシュタット高地で道に迷っていたタルタルの双子を連れて、少々にぎやか過ぎる旅を続けること数日、やっとセルビナの町が見えてきた。

信じがたい話だったが、ふたりはこの町から冒険者の一行にまぎれてコンシュタットまで歩いたという。幼い少女たちの冒険心と、はかり知れない度胸に、私は敬意を表した。
セルビナに到着するやいなや、ふたりの手を引いて宿屋に向かった。

案の定そこで待ち続けていた母親は、歓喜の声を上げて娘たちを抱きしめた。母の優しさを急に思い出したのか、双子はやはり同時に泣き出した。

親子の再会を見届けて、私はようやく静かな時間を取り戻した。ほっとしたが、物足りないような気もした。


その晩のことだった。宿屋の片隅で久々の酒を味わっていると、杯を手にしたエルヴァーンの戦士が、私の隣に腰掛けてきた。

「ちょっと失礼。あなた、かなり腕が立ちそうね。明日、時間ある?」

「時間か……呆れるくらいあるな」

「話が早い。その時間、買った」

写真
翌朝のバルクルム砂丘は、容赦なく降り注ぐ強い陽光を跳ね返し、まるで白銀の世界にも見えた。

女は海岸で探し物を始めた。私はその姿を常に視界に捕らえながら釣りをして過ごし、たまに厄介者を追い払ったりした。つまりは用心棒だ。私を信用したのか、女は鎧を脱ぎ捨てて作業に没頭するようになった。

女が必死で探していたのは、祖父から譲り受けたという剣だった。斬りかかった敵に弾かれ、そのまま夜の波にさらわれてしまったらしい。

誇り高きエルヴァーンの戦士が丸腰では示しがつかない。同じ冒険者には頼みたくなくて、私のような旅人に声を掛けてきたのだろう。

日が傾く頃には、釣り餌も尽きた。波打ち際には、ひとり肩を落としている女の影があった。自力で剣を見つけたいだろうと思い、私はただ傍らで見守っていたが、そろそろ協力を申し出てもいい頃合いだった。

女の方に歩き出したその時だ。何かが日の光を映して鋭く光った。波が引くと、砂に埋もれかかった剣が姿を現した。私は思わず声を上げた。

女は砂を蹴って立ち上がると、潮風に逆らって駆け寄ってきた。

西の空に向かってかざされた剣は、バルクルムの夕日の光に刃を縁取られて、高貴な輝きを帯びた。
写真 それを見た女は、ほんの一瞬だけ安堵の表情をのぞかせたが、すぐさま戦士らしい顔つきを取り戻した。

まるで生気を吹き込まれたかのような横顔は、右手の剣にも似た凛とした美しさをたたえていた。その剣は、戦いに生きる者の証であり、女の魂そのものだったのかもしれない。

砂の町に、再び夜の帳がおりた。その日私は、何故だか酒を飲む気にもなれず、早々に寝てしまった。そして浅い眠りをさまよううちに、昔の夢を見た。

舞台は町の武器屋で、父に初めて剣を買ってもらった日のことだ。それはほんの安物だったが、兄と同じ剣だった。嬉しかった。使えもしない剣を1本携えて歩くだけで、自信と勇気が胸いっぱいにあふれてきた。

まるで英雄の仲間入りをした気分のまま、夢から覚めた。何だかじっとしていられなくなった私は、まだ薄暗いセルビナの町を飛び出した。
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