読み物
幼い頃、チョコボで大地を駈ける夢をよく見た。獣人どもが待ち受ける野を疾風となり、降り注ぐ矢を避け、地平線まで駆け抜けるのだ。それは実に痛快で、私はチョコボに乗れる日を楽しみにしていた。

現実とはなかなかに難しいもので、少年時代の夢さえ、簡単には叶えてくれない。

私がチョコボ騎乗を学んだとき、最初に教えられたのは「獣人に近寄るな、風上なんてもってのほか!」であった。

その原因は至極単純なもので、私は納得するしかなかった。チョコボの匂いである。

知ってのとおり、チョコボからは何ともいえない匂いがする。

それは我々にとっては心地よいものなのだが、獣人らにとっては鼻が曲がるほどの悪臭らしいのだ。

そのため、騎乗中に獣人に見つかると、その匂いを頼りに地の果てまで追いかけられることになる。

もし私が夢にしたがって、獣人の群れに突っ込もうものなら、その後の惨事は想像を絶するものがある。

かくして少年の夢は、第一歩を踏み出した瞬間に打ち砕かれたのであった。

だが、冒険者たちがチョコボ騎乗をマスターするようになって、その恐れていた「事故」が頻発するようになった。

チョコボを追いかけ街道まで出てきた獣人らが、旅人を襲い出したのだ。

もとより冒険者たちは獣人を恐れていなかったのだろうが、迷惑なのは襲われた旅人だ。

いくつもの苦情がチョコボ厩舎に寄せられ、一時は厩舎の閉鎖まで噂されるようになった。

結論から述べれば、この問題は見事解決された。

このチョコボの匂いに着目した、ウィンダス連邦『鼻の院』の魔道士たちが、日夜の研究を経て、チョコボの匂いを吸収する「寝藁」を完成させたのだ。

その完成までの、鼻の院魔道士たちの苦労についても語りたいところだが、長い話なので別の機会に譲ることにする。

こうしてチョコボ厩舎で借りるチョコボからは、あの独特な匂いが弱まったのである。

私の夢を砕いた問題は、何十年もの時間を経て、解決されたわけだ。

そして私は、幼い頃に見た夢を、再び見るようになった。そして、夢のチョコボからは、その匂いが漂っているのである。
(Ainworth)
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