出来事

これまで冒険者同士の結婚は、主に国家間の問題が理由で非公式に行われてきたが、昨今 “冒険者同士の結婚の制度化を”という声が高まっている。これを受けて、各国が結婚を公認しようとする動きを見せた。

サンドリア、バストゥーク、ウィンダスの三国は、勢力争いの相手を他国ではなく獣人勢力に転換することで、国際協調を可能とした。

これがいわゆる「コンクェスト政策」である。以来、冒険者たちは各地で対獣人の共同戦線を展開してきたが、一部の政府関係者や市民は、この国際協調路線に賛同しきれずにいた。

その理由は、国家や種族の違いに端を発する長い対立の歴史にある。国境を超えての結婚なども、昔からあるにはあったのだが、決して容易でなかったことは想像できるだろう。

ところが、所属国すら自由に選択できる冒険者たちの人口が増加の一途をたどる今日、歴史はよい意味で忘れられつつある。それは彼らが、一般市民に比べると、所属国や種族の違いなどに対して寛容な意識を持つ傾向にあるためだと考えられる。

冒険者たちが、所属国の領地拡大に少なからず関心を持っていることは事実である。

しかしそれ以上に、彼らの多くは、苦楽を共にしている仲間たちの存在を大切に考えているようだ。互いの帰る場所や話す言葉が違っても、気持ちはひとつになれる。人が人を想う尊い心を前にして、国や種族の違いなど、何の意味も持たないのだ。

そんな彼らが、新しい時代にふさわしい自由な結婚制度を求めるのは、ごく自然なことと言えよう。

このような潮流に押されてか、先ごろ各国の関係者らがジュノに集い、各国政府公認の正式な婚儀の実現に関して談義する場が設けられた。

終始和やかなムードで話し合われた
結果、冒険者同士の婚儀に関しては三国がそれぞれ公式に執り行い、さらに式場は、新郎新婦の所属国にかかわらず自由に選択可能とする案でまとまった、と発表された。

また、この新しい結婚制度の施行にあたり、各国は速やかに準備を調え、既に仮運用を開始しているという。

日々危険な戦いに立ち向かい、ヴァナ・ディールの安全に貢献する冒険者たちのささやかな願いを実現させるためか、はたまたコンクェスト政策のさらなる活性には、国境を超えた結婚も有効と判断されたためなのか……。

各国上層部の思惑は不明であるが、今回の決定は、歴史的意義のある一歩と言って間違いない。

現在、婚儀の準備に奔走しているバストゥークの戸籍官は、こう語った。

「私個人は非常に喜ばしいことと受け止めている。国家や種族の抗争の歴史を知らない世代に、無益な対立を繰り返させる必要はないだろう」

「めでたいには違いないが、実際に挙式の受け付けが始まったら、こっちは随分と忙しくなりそうだな」

その言葉とは裏腹に、戸籍官の表情は明るかった。


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