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「まったく最近の若いヤツは……」

いつの時代だってこう呟く先達はいるものだ。いつの時代でも呟くその背中は、往々にして寂しそうに見える。彼らが嘆く背景には、それなりの理由があるのである。

達人ではないが、古い友人に名の知れた料理人がいる。先日、何年かぶりに自慢の料理を馳走してもらった。

彼によると、最近、弟子入りを希望する若者が後を絶たないらしい。冒険者の増加による食品の需要拡大が、その原因となっているのだろう。

彼の素晴らしい味が、広く世間に伝えられていくのは素晴らしいことだ。私が素直にそれを喜ぶと、彼は失望の色を隠そうともせず、お決まりのセリフを口にしたのである。

「まったく最近の若いヤツは……」

詳しく話を聞いてみると、皆、器用で飲み込みが早く、料理人としての筋は“申し分ない”のだそうだ。彼の弟子たちは、クリスタルを自在に使いこなし、次々と食材を調理しているらしい。

“だが、それだけさ”と、彼は言い捨てた。そして、それ以上この話題を続けようとはしなかった。

彼の言葉が気にならないわけもなく、翌日、私は編集部からウィンダス連邦の調理ギルドへ問い合わせてみた。すると、調理ギルドでも若手の育成に関して悩みを抱えていることが分かったのである。

調理師を志す若者の多くが、"技"にこだわるあまり、料理に込める"愛情"を忘れてしまっているというのだ。

より高度な技術を得るためだけに技を磨き、味ではなく滋養効果と利益ばかりを追求する。彼らの瞳に料理を食べる者たちの笑顔は映らず、一度マスターした料理のレシビを見ようともしない。

さらに、調理ギルドでは別の問題も抱えていた。各地の食材を販売するカウンターには日も昇らぬうちから行列ができ、開店と同時に特定の食材が買い占められてしまうというのだ。

買い手自身が調理するのなら、文句はない。しかし、彼らの目的は競売所やギルド入口での転売なのだそうだ。まったく、ゴブリンチョコを食べさせられた気分だ。

そして、それを助長しているのが、件の新米調理師たちらしいのだ。

食材の適正価格を知ろうともしない彼らは、金に糸目をつけず、その転売された品を買い漁っているのだそうだ。これでは、まったく悪循環だ。

調理ギルドでは、この状況を一過性の現象として捉え、即時的な対応は控えている。

ただ"この様な状況に嫌気が差して調理師の仕事を辞めてしまうベテランも少なくない"と、ある職人がこっそり教えてくれた。

何が悪いからどうすれば解決する、という簡単な問題ではない。

考えあぐねた末に出てくるのが、例のセリフなのだ。

“愛情を込めた料理を食べてもらう喜び”

いつの時代も調理師最高の幸せは変わらない。そう信じたいのだが、どうなのだろう。

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