読み物 ギルド調査員の手紙 -革工-

5通目 初めての共同調査
私は、ギルド調査団サンドリア班に所属するDalgaumm(ダルガウム)。木工職人の勧めもあり、先日革工ギルドに入門した。木材の世界ほど私を熱くするものはないと思っていたのだが……。

Dalgaummだ。我が故郷バストゥークは、今日も快晴だろうか? 最近、自分たち3人は革工ギルドへ入門したのだが、今日はそこでの出来事を報告しようと思う。噂好きな君たち3人は、興味津々なのだろうからな。

あれは確か、先週のことだ。初めて訪れたギルドショップで、「大羊のなめし革」を卸しに来たミスラの革商人に出会った。

彼女の扱うなめし革は実に丁寧な仕上げで、ついつい見入ってしまった。“やー、売れるのはいいけど、忙しいったらないねぇ。さーて、今日はラテーヌあたりで羊をとっつかまえて……”革商人は、やけに大きな声でひとり言を言いながら出て行った。

その直後、何者かが猛スピードで視界を横切った。Nahm-Yahm(ナームヤーム)班長だ。

班長は入口にぴたりと張りついて周囲を素早く見回すと、革商人に気づかれないように距離を置きながら後をつけ始めた。

班長の同期生のPutatta(プータッタ)は、いつも調査を抜けては出先で遭難してしまう彼を、まるで信用していない。だが自分は、班長たる者が目的もなく危険な旅に出ているはずがない、と常々考えていた。きっと彼は、鋭い嗅覚で何かを捕らえているのだ。密かな期待を込め、この日も自分は彼の出発を黙って見届けた。

写真
はたして数日後、班長は大量の「大羊の毛皮」を持ち帰ってきた。自分の予想をもはるかに上回る、素晴らしい成果だった。班長は、毛皮の山に埋もれながらこう言った。

“ねえねえ、この毛皮をなめすの、手伝ってくれる〜? キミの調査用に半分わけてあげるからさ〜♪”

自分の調査が、素材不足で難航していることを見抜いていたとは……。この時、自分は確信した。見かけは心許ないが、やはり彼はただ者ではないと。ともかく、班長と自分のなめし革作りは、こうして始まった。

なめしとは、なめし剤に皮を漬け込み、乾燥後の硬化を防ぐ技法だ。自分たちはレシピだけではなく皮なめしの工程を知るために、職人Kipopo(キポポ)氏の作業を見学した。

まずは、表面の毛などを取り除いて、きれいにした皮を、なめし剤と共に樽に入れて数日間じっくりと漬け込む。その後、水洗いしてから干し、1枚ずつ表面を整える。本来の皮なめしは、決して楽な作業ではない。

ちなみに、なめし剤という謎の薬剤について調査したところ、その正体は何と「ウィンダス茶葉」や「ウィロー原木」に含まれる“渋み成分”だった。もっと特殊な薬剤なのかと思えば、実際はこんな身近な素材が利用されていたのだから驚きである。

Kipopo氏に仕上がった革を見せてもらって、自分は大いに感心した。乾いても硬化しないばかりか、しなやかで手触りもよくなっている。こうして丁寧に作られたなめし革は、さまざまな製品となる。そう、なめし革なしに、革細工は語れないのだ。

写真 自分たちも早速、みようみまねで皮をなめしてみることにした。鮮やかな職人技と、素晴らしい仕上がりを想像しながら素材を「闇のクリスタル」で加工すると、毛皮がまったく異なる質感で生まれ変わる。これが実に面白いのだ。木材以外に、これほど興味深い世界があるとは……!

要領をつかみ、作業も軌道に乗り始めた時だった。

“そこの2人〜! わたしに隠れてなにしてるのー!?” そう叫びながら、凄まじい勢いで駆け込んできたのはPutattaだった。

お決まりの展開だ。いつもの癖か、班長は反射的に逃げ出したが、あえなく彼女に捕まった。そして、結局3 人で「大羊のなめし革」の調査を進めることで落ち着いた。このような共同調査は、何を隠そう我が班にとって初の試みだった。

独自の思考で予想外の行動をとる班長と、少々世話焼きの過ぎるPutattaは、作業中も小競り合いを繰り返していた。それでも、東の空に月が顔を出した頃には、どうにかすべての毛皮をなめし終えることができた。

初めて自分たちの手でなめした革は、見た目に少々難があったものの、そこが逆に味わい深く感じられた。苦労の分だけ愛着も湧き、急に手放すのが惜しくなったりもしたが、資金も不足していたので、二束三文ですべてギルドに買い取ってもらった。

さて次の晩、前日と同じようにギルドショップで大量のなめし革を売っていたところ、例のミスラの革商人がやってきた。

“なぁに? あんたたちも、なめし革作ってここに卸し始めたんだ? ふ〜ん。ま、革工仲間が増えるってのも、にぎやかになっていいかもねぇ”

正直なところ、この言葉には驚いた。

商売敵であるはずの新参者を、彼女は“仲間”と呼んでくれたのだから。どうやら自分たちは、よき先輩職人を見つけることができたようだ。

……おお、そろそろNahm-Yahm班長と羊狩りに出掛ける時間だ。もう少し腕が上がったら、君たちにブーツでもこしらえて贈ってやろう。もちろん、若い女性好みの流行のデザインでな。

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