読み物 水晶夢宙

人生というのは、果てのない旅路のようなものだ。いつだって自分が道程のどの辺にいるか分からず、ただ前に向かって歩むことしかできない。だが、時に振り返ってみると、随分遠くまで
来たことに気づかされることもある。

私が記者を志した頃は、クリスタル戦争の爪跡がヴァナ・ディールのいたる所に生々しく残されていた。

あの頃と今日を比べると、世界は本当に様変わりした。

船が空を飛ぶことなど、誰が信じただろう? 荒廃した焼け野原から、誰が今のウィンダスの隆盛を想像できただろう?

矢継ぎ早に起こる世界を揺るがすような出来事を、新米記者だった私は必死になって追いかけてきた。

その間、自分がどれだけ成長しているかなど、考える余裕もなかった。

徹夜明けのあくびと空きっ腹、そして無精鬚の伸び具合。時間が私に与える変化など、その程度にしか意識していなかったのだ。

そんな私がそのことに気づいたのは、後輩を指導していた時だった。

私の体には、いつの間にか記者としての技術や知識が染みついていたのである。

それは駆け出しだった頃、私が欲してやまなかったものだった。

いつ、それらのことを学んだのか、思い出すことはできなかった。ただ、時間は、世界だけでなく私自身も成長させてくれたらしい。

今思えば滑稽なことだが、その時は、自身の成長という現実にひどく狼狽し、スランプに陥ってしまった。

私は自分が若輩者で、理想とされる記者像からはまだ程遠いと思っていたのだ。

しかし、振り返ると、自分には成長の跡があるのも、また確かだった。

今までに歩んできた距離と、理想までの距離。

その2つを比べれば比べるほど、終着地は遥か彼方へと遠ざかっていく気がした。

とはいえ、そんなことで悩んでいる
間にも後輩は無心に成長を続け、私との距離を縮めてくる。

後輩への焦りもあったかもしれない。追い抜かれるわけにはいかないと、私はアレコレ考えるのをやめ、ただ前へ進もうとした。

そのことは、結果として、後輩と同じように私を記者として無心に戻し、スランプから抜け出す一因になってくれたようだ。そして、私は、小さな新聞社の編集長として、今もなんとか記事を書き続けている。

ただ、後遺症こそなかったものの、今でも新しい後輩ができるたびに、記者を志した頃の自分の姿を重ね、自分の歩んだ距離と、理想までの距離を比べてみるクセは残ってしまった。

今号でお披露目となった特派員も、私の新しい後輩である。彼らも無心に成長を続けることだろう。

そして、いずれ、私よりも優れた記者になってしまうかもしれない。

しかし、私も彼らに追い越されるつもりは毛頭ない。理想までの距離が遥かに遠い者同士、切磋琢磨していくつもりである。

Ainworth
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