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バストア海で働く船乗りや漁師、あるいは冒険者であれば、海賊たちに遭遇したことがあるかもしれない。これまで、その組織や活動は謎に包まれていたが、先日、ある匿名の若い船乗りから興味深い証言を聞くことができた。
「本当に見たんだよ。海賊どもがたむろする港を! なんとヤツら、そこで略奪品を取り引きしてたんだ」
彼は、ウィンダスから作物の育たないマウラに野菜を運ぶ、帆船“クビラウンビラ号”の船長。船員は、彼の弟1人だけ、という小さな船だ。
その日、いつものようにウィンダスから出港した彼らは、マウラ近海まで来たところで、不幸なことに、海賊船に見つかってしまった。
海賊船は、恐ろしい勢いで接近してくると、もやい綱をつけたカギ爪を次々と放ち、瞬く間に“クビラウンビラ号”を捕えてしまった。
泳ぎが達者な弟は、海賊に捕まるよりはマシと、すぐに海に飛び込んで難を逃れたが、兄である彼は違った。
好奇心の赴くまま、もやい綱を伝うと、あろうことか、海賊船に潜入してしまったのだ。
その間、海賊たちは積み荷を漁っていたが、樽に入った野菜以外、特に目ぼしいものがないことに気づいたらしく、“クビラウンビラ号”を放棄して、再び海賊船を動かし始めた。
少しだけ海賊船の様子を覗いて、すぐに引き返すつもりだった船乗りは、脱出する機会を逸し、ただ船倉に身を潜めるしかなくなった。
物陰で息を殺し、ひたすら祈ること数時間。彼を乗せた海賊船は、不気味な汽笛を響かせ始めた。どうやらそれは、寄港の合図らしかった。 |
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「バストゥークの艦隊が躍起になって探しても、見つからなかったわけさ! なんせヤツらの巣窟ときたら、海底洞窟の中にあったんだから!」
隙を見てまんまと下船した彼が目にしたのは、海賊たちが略奪品や禁制品を商人相手に売りさばく、にぎやかな闇市の現場だった。
「とにかく、まともな方法で手に入るような代物じゃなさそうだったね。いかにも、天晶堂あたりがさばいてそうな品さ」
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その後、売り子の海賊に混じって、見張りの海賊たちが目を光らせていることに気づいた彼は、暗がりに紛れて港の小舟を奪い、大しけの海へ漕ぎ出したという。まさしく、決死の脱出劇だった。
頼りない小舟は、木の葉のように荒波に翻弄されたあげく、1週間の漂流を経て、ついに陸へと流れ着いた。なんと幸運なことか。そこは、ブブリム半島のミゴヤ海岸だったのだ。
長い冒険談を語り終えた彼は、最後に1つ、重要なことをつけ加えた。
「実はさ、小舟を出した時に海賊の頭領らしき男と目が合ったんだ」
「背格好からすると、ヒュームのようだったな。手下どもには“ギルガなんとか”って呼ばれてたと思う。なにもかも見透かすような、あの鋭い目ときたら……。今、思い出すだけでも身震いするよ」
海賊の本拠地と思われる海底洞窟、闇市、そしてヒュームの頭領……。にわかには信じ難い内容だったが、彼の目は、嘘をついていなかった。
我が社は、この目撃証言をまとめてジュノ政庁に提出したが、なんら回答を得ることはできなかった。
バストア海を我が物顔に荒らしまわる海賊たちを、どうすべきか。
船乗りや漁師たちの一縷の望みは、冒険者に託されているのかもしれない。
Rirukuku
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