読み物 ギルド調査員の手紙-錬金術-

6通目 錬金術は怖くない?
やっほ〜、こちらLilli。ウィンダス班、どんな調子よ? ふたりとも、調査そっちのけで釣り三昧かな〜?

うちの班は今、錬金術ギルドの調査中だよ。まあ、今でこそ順調なんだけどさ、初めて訪ねた時は、えらい衝撃を受けたんだよね。

今日は、めずらしく手紙なんて書いてるんだ。その時の話でもするか〜。

調査初日はさ、あたしたち3人とも鉱山区の路地で迷っちゃって、やっとの思いでギルドに着いたわけよ。

胸を躍らせてギルドの扉を開けたとこまではよかったんだけど、次の瞬間、気がついたんだ。意識が遠のくような、もへ〜っとした空気に……。

おそるおそる2階へ上がると、そこは職人さんの実験室だったんだけど、いや〜もう、とんでもない異臭が充満してるんだわ! 3人仲よく、反射的に鼻をつまんだね。ほんとに、尻尾の先まで痺れる臭いだったな。

Calvita(キャルヴィータ)なんて“今日は早退します!”とかなんとか鼻声で叫んで、逃げ帰る始末よ。

残されたMuclaire(ミュークレール)班長とあたしも、かなりあせったね。

とりあえず、緑色の煙を発生させながらヘンな実験をしてた職人さんをとっつかまえて、聞いてみたのよ。

“いったいなんの臭いですか!? 吸い込んで平気なんですか?”って。
“臭い? さあ、特になにも感じないな。心当たりがあるとすれば、作りかけの「にかわ」くらいだが”

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そう言って彼が見せてくれたものは……! 見た途端、あたしたちは倒れそうになったね。だってさあ、動物の毛皮と骨が、大鍋でごった煮にされて、ド〜ロドロのデロッデロになってるんだよ? おまけに、期待を裏切らない強烈な臭い!!

後で聞いたんだけど、どうやら職人さんは、「毒薬」やら「沈黙薬」を短剣の刃に塗りつけるために、「にかわ」を作ってたらしいんだ。

錬金術ギルドが、奇妙な材料を調合して、アヤシイ薬品の数々を作ってるのは知ってるよね?

その薬品を武器に仕込んだりするのも、ここの得意ワザってことよ。

職人さんは、錬金術の神秘についてあれこれ話してくれたけど、あたしにとっては「にかわ」の臭いを感じないで済む彼の鼻のほうが、よっぽど神秘的で驚きだったね。

「にかわ」の大鍋から少し遠ざかって深呼吸したあたしは、職人さんにもうひとつだけ質問してみたの。彼がずっと張りついてるおかしな実験装置のことが気になってたからさ。“あの〜、さっきからその装置で、なにしてるんです?”

彼の返事ときたら、こうよ。“黄金のカエルを生み出す実験だよ”

錬金術って、すっっっごく謎……! それが、初日の正直な感想だったね。

ま、それでも、なんだかんだで、今じゃ錬金術にも慣れてきたんだけどね。今日もね、班長と「ポイズンバゼラード」作りに挑戦してたんだ。

え?「にかわ」の臭い? 平気だね。
なにを隠そう、ふたりとも風邪引いてて、鼻づまりだからさ〜
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ただ、Calvitaはね、なんとしても「にかわ」を使いたがらないんだわ。

いっつもギルドの外で、香りのいいハーブから作る「デオドライザー」みたいな薬品ばかり調査してるよ。

ところでさ、今日は、鉱山区に住んでるガルカのおじいさんから、錬金術ギルドの裏話を仕入れたんだよ。

錬金術ギルドの実験所って、昔は商業区の彫金ギルドの並びにあったんだって。

その当時はまだ、黄金を作り出そうとして、闇雲に実験を繰り返してたのよ。んで、ある時、今じゃとても考えられないような薬品の調合ミスをして、ちょっとした爆発を起こしちゃったらしいんだ。

しかも、それが倉庫の薬品に引火したものだから、実験所は見事に焼失。バストゥークの空は、三日三晩、紫色の煙に覆われたって話だよ。

幸い怪我人は出なかったみたいだけど、実験所の再建には、錬金術ってものに不安を感じちゃった近隣の住民たちが猛反対したとか。そんな事情もあって、鉱石通りの奥に移転するはめになったんだってさ。

“爆発や火事が起こらなくても「にかわ」の臭いだけで十分迷惑してるんだ”って、おじいさんは怒ってた。
ただ、そんな錬金術ギルドでも、国の基幹産業には違いないから、追い出すわけにもいかないんだって。

とまあ、なにかと話題に事欠かない錬金術ギルドだけど、最近、薬品の需要が高くなってきたおかげか、冒険者の人気を集めてるんだ、これが。

釣りに夢中なおふたりさんも、今度入門してみなよ。木工ギルドじゃ扱えない釣竿を作ったり、修理したりもできるからさ。心配要らないってば。錬金術は、ちょびっと臭うだけで、全然怖くないからさ〜!

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