読み物 水晶夢宙

先日、ウィンダスへ出張した帰りのこと。いつもなら飛空艇を利用するところだが、翌日から休暇をとっていたことをふと思い出した私は、暖かい陽気に誘われて、チョコボを駆り陸路ジュノへと向かうことにした。

穏やかな陽光に満ちた草原、遠くに聞こえる小川のせせらぎ、賑やかな小鳥たちのさえずり。サルタバルタの街道は実に長閑だった。

心なしか、チョコボの歩みも緩やかになり、鞍が揺りかごのように心地よい。私は陸路を選択したことに満足していた。

しかし、のんびりした優雅な旅も、タロンギ大峡谷に足を踏み入れるまでだった。目も開けられない砂嵐が、軽装の我が身に容赦なく襲いかかったのだ。

これもまた陸路の醍醐味と言えなくもないのだが、この先もずっと、このような過酷な環境が続くのかと思うと、気が滅入った。案の定、険しい山道を抜けるまでこの苦難はつづいた。

それでも、何とかメアの岩まで辿りつき、チョコガールの施しで一息つくことができた。

その後、彼女から餌を貰って元気になったチョコボを駆って、私はかつての川底を利用した街道を一気に抜けた。

“彼ら”と遭遇したのは、丁度ドロガロガの背骨をくぐった時だった。

突然、街道の先からズゥンという重い地響きが聞こえた。不審に思いつつ、私は嫌がるチョコボをなだめて、道なりに進んだ。そして、曲がり角を折れた瞬間、眼前に現れた光景に我が目を疑った。

なんと、巨大な雄羊が街道をでんと塞いでいたのだ。よく見ると、群れを率いているらしく、背後に他の羊も見える。

驚いた。ミンダルシア大陸には生息していないはずのセルビナ大羊。

その群れに遭遇したのだ。こんなことがあり得るだろうか。

かの羊は気性が荒いことで知られているが、彼らがそうでないことはすぐに分かった。合計6頭の羊は、群れのリーダーらしい巨大な雄羊を先頭に整然と列を作り、どこかへと向かって歩を進めている。

私は、後をつけてみることにした。特に急ぐ旅でもなかったし、身に染みついた記者根性が、休暇返上でうずきだしたのだ。やがて、群れが開けた場所に出た時だった。

「いたぞ、こっちだ!!」

そう叫ぶ声が聞こえたかと思うと、今までどこにいたのか、冒険者の一団が四方八方から現れた。

冒険者たちは私を一瞥しただけで、すぐに羊の群れに殺到した。剣は鞘に収めたままだったので、戦うつもりではなさそうだ。

不思議に思っていると、彼らはしきりに雄羊に追いすがり、何やら捧げ始めた。長い記者生活でも、こんな奇妙な光景を目にするのは初めてだ。

冒険者たちは皆、徒歩だった。

自らの足で追いかけるのは、さぞかし大変だろう。気がつくと、私は彼らの熱気に圧倒され、 20 ヤルムほど離されてしまっていた。

潮時だった。もう、日も傾き始めていたし、チョコボも怯えて、彼らに近づくのを拒んでいた。興味はつきなかったが、私は彼らを後にし、旅を続けることにした。

やがて、長旅の疲れを癒やす間もなく休暇は終わり、久しぶりに社に顔を出すと、ちょうど編集部では、各地から寄せられた、彼ら“幸運の羊たち”の目撃情報の対応に追われていた。

驚くべきことだが、彼らはヴァナ・ディールの各々離れた地域に、ほとんど同時期に出没していたようだ。

気紛れに選んだ陸路の旅だったが、私は思いがけない特ダネにありつけた訳だ。

休暇明けで何も知るまいと、したり顔で近づいてきた御親切な同僚に、私はにやりとして見せた。

Ainworth

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