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のっそりとした歩き方とつぶらな瞳で、ともすると温厚そうにも見えるグゥーブーは、パシュハウ沼などに生息するどう猛なモンスターだ。最近になって、彼らの起源がボヤーダ樹付近にあることが立証された。
グゥーブーの背中は、珍種の苔で覆われている。この苔は、昔から羊の餌として取り引きされていた以外、何ら価値を見いだされていなかった。
ところが、ひと昔前に、辺境の地で遭難しかけた1人の修道士によって「光り苔」という苔が発見されたことを機に、博物学者たちは、グゥーブーの背中の苔に注目するようになったのだ。
「光り苔」が発見されたのは、ミンダルシア大陸北端のリ・テロア地方にあるボヤーダ樹という洞窟だった。
やがて、この苔がグゥーブーの背中を覆う苔と、非常に似た組織を持っていることに気づいた学者たちは、すべてのグゥーブーはかつてボヤーダ樹周辺に暮らしていた、とする仮説を立てた。
グゥーブーの背中の苔が「ボヤーダ苔」と呼ばれ始めたのも、この頃からだった。 |
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以来、長年にわたって苔の研究に勤しんだ彼らは、遂にこの仮説を立証するに至った。
世界各地で採取した苔と比較調査した結果、ボヤーダ樹の洞内に密生する「光り苔」には、グゥーブーの背中を覆う苔と多くの部分で共通する特徴が見られたため、その祖先種であることが確実となったのだ。
晴れて、グゥーブーの起源に関する謎は解明されたわけだが、その故郷と特定されたボヤーダ樹周辺については、まだ謎だらけである。
古文書や研究書を紐解いてみても、ほとんど民間伝承と変わらない曖昧な記述ばかり。これは、辺境のリ・テロア地方が、長い間人々の関心の外にあったためだろう。
そこで本紙は、「光り苔」の採取のために現地へ赴いた1人であるという博物学者に、取材を申し込んだ。こころよく引き受けた彼は、言葉を選びながら、丁寧に説明してくれた。
「リ・テロア地方にはジ・タという針葉樹の森が広がっています。そこは、女神信仰にゆかりのある巡礼地に通じているそうで、いつからか聖地と呼ばれるようになったと伝えられています。
さて、今回の調査報告によって、脚光を浴びるようになったボヤーダ樹という洞窟は、聖地ジ・タの深い森の中にあります。
正確に表現するならば、ボヤーダ樹というのは、数万年もの樹齢を誇っていた巨木の呼び名でした。
その巨木が今から数百年ほど昔に朽ちた跡地に、洞窟が生まれたわけですが、今ではこの洞窟がボヤーダ樹と呼ばれているのです」
ちなみに洞内は、凶暴な生物のすみかでもあるそうだ。
学者たちだけでは、洞窟の入口付近で苔を採取して帰ってくるのが精一杯だったという。
彼は、こんな言葉で話を締め括った。
「確かに、苔の研究によってグゥーブーの故郷は明らかになりました。けれどもそんなものは、リ・テロアに眠る大いなる謎の、ほんの片鱗に過ぎないのかもしれません」
Rirukuku |
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