読み物 水晶夢宙

赤魔道士は、剣術にも長けている上、白魔法と黒魔法の双方を使いこなすことができる多芸な魔道士だ。ゆえに、器用貧乏と揶揄する人もいるが、それは違う。独自の魔法を含む、れっきとした魔道の一系統を修めた者なのだ。

そんな彼ら専用の魔法のひとつに、「リフレシュ」がある。

かつてはその存在すら疑問視されていたが、最近になって実在することが立証され、赤魔道士たちを中心とした冒険者に、一大探索ブームを巻き起こした魔法だ。

東の“なにがし”という怪物が持っていたという噂がたてば東へ駆け、西の“どこそこ”という洞窟で発見されたと耳にすれば西へ飛ぶ。まさに東奔西走と呼ぶにふさわしい熱狂ぶりである。

今、「リフレシュ」の魔法スクロールを競売にかければ、何十万、否、何百万ギルもの値がつくとさえ言われ、一攫千金を狙う冒険者にとっては、格好のお宝となっているのだ。

では、この「リフレシュ」とは、一体どのような魔法なのか? なぜ、赤魔道士たちは躍起になって「リフレシュ」を求めるのか?

パブ「マーブルブリッジ」で、飲み友達の赤魔道士に、何気なくこの問いを投げかけたところ、彼は待ってましたとばかりに、嬉々として説明をしてくれた。

その内容は、初代“星の神子”が魔法を授かった伝説に始まり、魔法の基礎理論、呪文の詠唱と精神力の相関関係などを経て、果ては赤魔道士がなぜ“赤”魔道士なのかにまで至る、壮大なものだった。

しかし、その多くは私にとって、いささか専門的過ぎた。質問しておいて、ひどい言い草であるが、彼の説明を理解できるくらいなら、私は記者などではなく、魔道士として大成していたに違いない。

やがて彼は、私がただ相槌をうつだけで精一杯なのに気づいたらしく、最後に一言付け加えて、この話題を切り上げてしまった。

「ジュースを飲むのと似たようなもんだよ」

なるほど、納得のいく説明ではある。確かに、その種の飲み物は、魔道士に対して効能があるという話だ。

だがこれだけでは、なぜ赤魔道士が「リフレシュ」を手に入れるために躍起になるのか、さっぱりわからない。

“ジュースを飲む方がてっとり早いのではないか?”とか、“飲んで美味しいジュースのほうが、お得なのではないか?”とか、かえってくだらない疑問が新たに増え、頭の中をぐるぐる回る始末だった。

そもそも、この魔法に支払われる何百万ものギルで、ジュースだったら何千本買えるのだろう? ほろ酔いの頭では、計算もままならない。私は頭をふって考えることを止めた。

「リフレシュ」の真価を、私の頭で理解するためには、魔法について一から学びなおす必要がありそうだった。

少なくとも、その時の私にとっては、幻の「リフレシュ」よりも、酔い覚ましに出された、きりりと冷やされた「グレープジュース」の方が、価値あるものだったことは確かだ。
Ainworth

戻る