出来事 最後の竜騎士

サンドリアの天才画家ミックの作品が、カッファル伯爵邸で新たに見つかり、数日の間、一般公開された。この絵に描かれている竜騎士の姿が話題となり、多くの人が一目見ようと伯爵邸を訪れた。

この名画“最後の竜騎士”は、かつてサンドリア王国に栄光をもたらした龍王ランペールが、当時の騎士団長だった竜騎士の功績を称えるため、召し抱えていた宮廷画家のミックに、その雄姿を描かせたもの。 写真

その“最後の竜騎士”を所蔵していた故Caffaule (カッファル)伯爵は、有数の絵画コレクターとして知られ、この絵も含め未鑑定のままの絵画を数多く残していた。

この度、伯爵夫人の依頼で鑑定し、“最後の竜騎士”がミックの手によるものだと明らかにしたUllasa(ウラサ)氏は、この絵の価値を次の通り説明する。

「この絵は完成された名画であるばかりか、実は我が王国史にとっても、非常に意義あるものなのです」

サンドリア王国の歴史には、飛竜を駆り、大空を翔たという竜騎士が数多く登場する。しかし、ある時期から彼らは減少の一途をたどり、この絵のモデルとなった騎士を最後に、すっかり姿を消してしまった。

それゆえに竜騎士のいでたちを克明に伝えるこの絵は、王国にとって貴重な歴史遺産なのだ。Destin(デスティン)国王は、カッファル伯爵家の所有権を認めた上で、この絵を国宝と定める旨を発表している。

サンドリア国民の竜騎士に対する関心は非常に高く、伯爵夫人の厚意でこの絵が公開されると、数日の間に、噂を聞きつけて伯爵邸を訪れた人が、のべ千人にも達した。

竜騎士の雄姿は、彼らの目に騎士王国の輝かしき過去の象徴として映ったようだ。

しかし、その中には、この絵に未来を見いだした者もいた。竜騎士に見入っていた若い騎士は、次のようにコメントした。

「幼い頃から竜騎士になることを願い、騎士となり、精進してきた。だが、願うばかりではなく、決意が必要だとこの絵に教えられた。必ずや、竜騎士になってみせる!」

竜騎士がいなくなったことについて、ある考古学者は、当時、飛竜の個体数が激減していたこととの因果関係を指摘している。

「資質ある者が飛竜と契約を結ぶことで、初めて竜騎士が誕生します。ところが、飛竜の極端な減少にともなって、その機会がほとんど失われてしまったのです」

もちろん、有望な若者は、現代にも数多くいる。竜騎士が復活する可能性はあるのだ。ただ、契約する飛竜が見つかれば、の話だが。

ただ、ミックが残した1枚の絵画が、少なくともひとりの若者の心に火をつけ、竜騎士への道を指し示したことは確かだろう。
Ainworth

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