今回、私はウィンダス連邦の遠征軍に従軍する機会を得た。冒険者のCall、Alucard、Assi、Kazurin、Neueziel、Masaky、Muwu、Ririsyu、Ryurinから成る遠征隊の目的は、獣人軍旗の撤去だという。
彼らが事前に行っていた情報収集によって、立ち塞がる障害が次のようなものであることが明らかになっていた。
1.
獣人が獣人軍旗を守っている。
2.
軍旗を守る獣人は1人ではない。
3.
獣人とはゴブリンであるらしい。
4.
獣人らはただの烏合の衆ではなく、冒険者のようにパーティとして、個々を補完する役割を担っている。
以上のことから推測されたのは、この獣人のパーティは、軍旗撤去に訪れる冒険者に対抗するために編成された、特殊迎撃部隊だということだ。
獣人がパーティを組むなど、にわかには信じがたいが、もしそれが事実ならば、多対一の戦いを定石とする冒険者にとって、多大なる脅威となるだろう。
情報を検討する遠征隊に、過去にその迎撃部隊との交戦経験を持つ冒険者から激励の報が届いた。
「敗北する瞬間とは、パニックになったときだ。意志を強く持て。誰かが倒れても、最後まで冷静に戦うことだ」
作戦会議の結果、獣人との白兵戦を任じるアタックチームと、魔法等で支援するサポートチームとに、9 人を分割した上で、獣人を1人ずつ撃破していく戦術がたてられた。
そして、互いの装備や役割を確認した遠征隊は、戦闘魔導団Harara(ハララ)氏の魔法で、砂塵が吹き荒ぶアラゴーニュ地方メリファト山地へと降り立ったのである。
獣人軍旗の捜索は困難を予想されていたが、存外、簡単に見つけることができた。それだけ獣人軍の勢力が拡大しているということだろうか。
遠征隊は、万が一に備え、周囲にいた他のモンスターたちを排除し、食事をとって体力を蓄えた上で、獣人軍旗の撤去に取りかかった。 Callが獣人軍旗に触れた瞬間、どこからともなく特殊迎撃部隊が現れた。それは、事前に入手していた情報通りの展開だった。
遠征隊は臆することなく、武器を構えた。
作戦に従い、遠征隊は特殊迎撃部隊の各個撃破を狙ったが、ことはそう簡単には運ばなかった。獣人軍は二手に分かれ、一方は攻撃チームに、もう一方は援護チームに同時に襲いかかったからである。
混戦に慣れない冒険者にとって、まさに正念場であった。
もし、事前に経験者の激励を受けていなければ、遠征隊はパニックを起こして壊滅していたかもしれない。だが、彼らは、冷静さを失うことなく、1人ずつ撃破していく作戦を見事に遂行した。
そして、1人の犠牲者を出すこともなく獣人の特殊迎撃部隊を撃破し、軍旗の撤去を完了したのである。
今回の遠征隊における勝因は、事前の準備が万全だったことに尽きるだろう。綿密な調査と作戦立案、そして後はそれを冷静に遂行できる胆力さえあれば、たとえ敵が獣人の精鋭部隊であったとしても、恐れることはないのだ。
敵を知り、己を知り、十分に準備することが、実は勝利への一番の近道なのではないだろうか。
Across / Phoenix