読み物 水晶夢宙

昼下がりにル・ルデの庭のベンチに腰掛けて、この原稿のアイディアを練っていると、まだ幼い少女がやってきて、唐突になぞなぞを投げかけてきた。少女の無邪気そうな瞳は、私をまっすぐに見つめていた。

「最初は、夜に輝く大きな1本の樹。つぎは、果物を頭に載せた2人の白い小人さん。じぁあ、3番目は?」

見ず知らずの少女は、自分の考えたなぞなぞに自信があったらしい。その瞳は、目の前のおじさんが頭を抱えて悩む姿を、待ち望んでいるかのように輝いていた。

私は、この小さな賢者につきあうことにした。頭を抱えて髪の毛をかきむしってみせた後、「降参!」と両手をあげてみせた。

すると少女は、喜びを満面の笑みで表現してから得意げに「じゃあ、おしえてあげる」と、答えを教えてくれた。

そして、きゃっきゃと笑いながら、 “答え”の方へと駆けていく。そこには、彼女の友だちの姿もあった。 写真

答えは「薄い紅色の花を咲かせる3本の樹」だった。ウィンダスの鼻の院から、このような飾り物が各国に贈られたのは、今回で3度目だ。

鼻の院のタルタルたちは、生命の不思議について調査するため、世界各地を飛びまわっているという。様々な諸国の祭礼を知る彼らだからこそ考えついた、粋な贈り物だ。

それにしても、この飾り物は、モンスターの品種改良という高度な技術においてだけではなく、純粋さという意味においても彼ららしい品といえるだろう。

タルタルは、老いという言葉を知らないかのように、子供のような姿のまま一生を送る。同様に、彼らの好奇心や感性も、子供のまま、色あせることはない。

贈り物が完成したとき、彼らはきっと無邪気な笑顔を浮かべ、全身で喜びを表現したことだろう。

大樹がまとった光も、マンドラゴラに実った果実も、そして、この風に舞い散る花びらも、彼らの純粋さから生まれたものなのだ。

私になぞなぞを問いかけた少女とその友だちは、3本の樹を指差して笑い、裏側に回って幹に浮かぶ顔に驚き、怖がるふりをしながらも時おりちらちらと覗き見ている。

樹の側で遊ぶのが、楽しくて仕方ないようだ。

駆け回る少女たちを眺めながら、ふと思った。タルタルでなくても、誰もが彼らと同じ無邪気さを持った幼少時代があったはずだ。もちろん、この私にも。

しかし、それを失ったのはいつのころだろう?

その時、目の前にひらひらと花びらが舞い降りてきた。反射的に手を伸ばした私は、空中でそれをつかんでいた。

そして、ふと、手の平をゆっくり広げて花びらを確かめている自分のおかしさに気づいて苦笑した。

なんだ、大して違わないか……。
Ainworth

戻る