出来事 ジュノから消えた貿易商

コンクェスト政策の対象地域が拡大した。このため、3国は新領地を獲得せんと、戦略を練ることに余念がない。そのさなか、ジュノ大公国では各地の特産品を商っていた貿易商たちが、なぜか街路から姿を消していた。

諸地方で得られる権益は、おのおの地方の保全にもっとも貢献した国家が独占できることが、コンクェスト政策によって定められている。ただし、特例がある。コンクェストの裁定役を務めるジュノ大公国だけは、各国の支配下にある地方すべての権益の一部を享受できることが、条約で保証されていたのだ。

その中には各地方との交易権も含まれていた。ジュノの往来だけは特産品を販売する貿易商の姿が常に見られていたのも、このためだ。市街のバザーが課税対象になった時に取材したKasim(カシム)氏も、フォルガンディ地方の特産品を商う、こうした貿易商の1人だった。彼らはジュノ商工会議所から許可を得て、公認で露店を営んでいたのである。
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ところが、先の四国協商会議後の発表は、彼ら貿易商たちを驚嘆させた。大公国代表は会議において「各地方から得られる権益を我がジュノ大公国はすべて放棄し、おのおの領有する国家に返還したい」という、驚くべき条約改正を提唱したのだ。

同会議においては、ジュノ-カザム間航路の再開、3国競売所の辺境進出、ジュノ競売所の出品手数料変更など、他にも重要な案件が多数承認されたが、中でもこの大公国の提唱は最大の英断として満場一致で承認された。

無論、他の3国にしてみれば願ってもない有利な話であり、反対する理由もなかったといったところだろう。こうして、ジュノ市民の生活を支えていた貿易商たちは、店仕舞を余儀なくされたのである。

彼らの納める税金のほか、各地方から得られる権益は大公国にとっても貴重な財源となっていたはずである。それをなぜ、わざわざ手放したのだろうか?

四国協商会議に出席した3国の代表に見解を求めたところ、皆、口を揃えて「裁定役としての立場を、大公国がわきまえていたため」とコメントしていた。

その理由として考えられるのが、最近の各国の財政難だ。コンクェストの対象地域が拡大したことによって、国境警備隊の派遣や補給路の確保など、3国の財政出動が莫大な額にのぼることは想像に難くない。監視人を派遣するだけで新領地の権益を得ている大公国が、早晩3国の国民から槍玉に挙げられることは十分予測される事態だった。

大公国としては、あらかじめその怒りの鉾先をかわしたことになるわけだ。これこそ、大公一流の外交術の真骨頂といえる。

ただ、そのような国家の思惑が交錯する中、ジュノの往来から姿を消した貿易商と、彼らを利用し、彼らがいなくなったことを残念に思うジュノ市民や冒険者がいたことも、我々は忘れてはならないだろう。
Ainworth

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