出来事 モーグリにまつわる素朴な疑問

あまり知られていない事実であるが、分類上、モーグリ族は獣人に位置づけられているという。それにも関わらず、彼らが人間と深い信頼関係にあるのはなぜだろうか? その疑問に挑む研究書が、最近発刊された。

我々にとってモーグリは、極めて身近な存在である。しかし、無邪気な子どものこんな問いに答えられる親は、ほとんどいないだろう。

“モーグリたちは、どこからきたの? どうして人間と仲よしなの?”

この難問に対して興味深い考察がなされた1冊の本が、静かな話題を呼んでいる。モーグリ研究の第一人者であるVoociacia(ヴシャシャ)氏の研究書、『モーグリの起源』だ。

大胆な解釈を加えつつ、モーグリたちが古くから人間と共にあったことを豊富な資料を用いて証明し、その謎の一端をも解き明かすこの本は、専門家の間でも良書と評されている。

モーグリの謎をめぐる旅は、まず暗黒時代の遺物考察に始まる。

この章では、モーグリと思しき生き物がミスラ族の狩猟祭でご馳走を運んでいる様子を描写している『タロンギの洞窟壁画』や、最近アルテパ砂漠で発見されたばかりのガルカ族の土偶『踊るモーグリ』などが図版入りで詳しく解説されている。

さらに有史以降の章では、古文書や伝承に残されているエピソードがいくつか紹介されている。

たとえば、宙に浮かびながら曲芸を披露した道化師が、サンドリアの暴君をたいそう笑わせたという伝記の記述や、タルタル族の勇者の最期を看取った従者が、形見の剣を日の変わらぬうちに別大陸に住む奥方まで届けたという逸話など、どれも著者が無数の古文書にあたって丹念に探し出したものだ。

彼らがモーグリであるという記述は一切残されていないものの、これらがモーグリにしかなし得ないこと、と著者は指摘し、こう推察している。彼らは確かにモーグリであったが、すでにその当時、人間社会に溶け込んでいたため、特筆される存在ではなくなっていたのではないか、と。

さらに次章では、モーグリがいかにして人間と接点を持つようになったのか、という最大の謎解きが始まる。

エルシモ島やゼプウェル島などの南方の島々には、行商や旅芸人を生業としている放浪のモーグリが暮らしている。通称ノマドモーグリだ。

著者は、彼らこそ、大陸の各都市で人間と暮らしているモーグリの起源を探る鍵と考え、焦点をあてたのだ。 写真

論拠の1つとして具体的に取り上げられているのが、カザムに暮らすミスラの風習だ。それによると、彼女たちは遠方への荷物をノマドモーグリに託すことが多いという。翼を持つ彼らは、危険な離島や森林などを越えての配達も難なくこなす上、信頼にたる存在だということが理由らしい。

ミスラの口伝によれば、これは随分昔からの風習であるということだ。著者は、この両者の関係から、次のような大胆な仮説を立てている。

いくつかの遺物が物語っているように、大陸に住まうモーグリもまた、おそらく配達などに従事して人間の信用を得てきた。やがて広大な大陸で国同士の争いが起きて伝令や使者の必要性が生じると、それらの重任にふさわしい者として、誠実なモーグリが選ばれる機会も増えていった。さらに時代が進むと、彼らは放浪生活を捨てて気に入った街に定住するようになり、現在のように冒険者に仕える者まで現れたのだろう、と。

根っからの世話好きであるモーグリにしてみれば、それも自然の成り行きだったのかもしれない。著者は、このように推論をまとめている。

つまり、主人の帰りを待ちわびながら部屋の掃除や荷受けに追われ、かいがいしく飛び回っているモーグリも、その先祖は風と共にさすらっていた、ということになるのだ。

さて、もっとも注目を集めているという最終章の最後で、著者は1つの意外な事実を読者に投げかけている。自らの仮説が真実に迫っていることを確信しながらも、モーグリの謎を完全に解き明かすことは難しいかもしれない、と。

というのも、著者の家に住むモーグリが、ある時こう打ち明けたからだそうだ。

「ボクたちは、御主人さまのことはもちろん、御主人さまの周りで起こったことも、仲間や子どもにぜったい伝えないクポ。だからこそモーグリは、いろんな人間に信頼されて、仲よく暮らしてくることができたクポ。

でも、いつも人間と一緒だから、ボクたちが自分の一生を語り継いだり、書き残したりして、モーグリの歴史を伝えていくこともむずかしくなってしまったクポ。それはちょっぴり寂しくもあるクポ……」

モーグリについて、これまで多くが知られていなかったのは、他でもない彼らの誠実さゆえだったというのだ。これには、著者ならずとも胸を打たれるだろう。子どもたちの素朴な疑問には、親どころか、モーグリ自身も答えようがなかったとは……。

「これからもモーグリの研究を続け、彼らに代わって、その歴史を紡いであげたい」

『モーグリの起源』の最後に記された一言には、Voociacia氏の決意が込められていた。
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