読み物 水晶夢宙


最近、仕事のミスが増えた。どれもささいなミスなのだが、繰り返しやらかしてしまうと、さすがに気が滅入ってくる。ストレスが溜まっているに違いないと思った私は、気分転換に釣りに行くことにした。

翌朝、早起きした私を応援するように空も快晴で釣り日より。 写真

私はジャグナー森林のメシューム湖まで足を延ばし、そこで釣りを始めることにした。のんびり糸を垂らしていると、やがて仕事ざんまいだった日々が遠い別世界のことだったように思えてくる。

「これは、よき釣り場じゃな。御一緒しても、よろしいかな?」

最初に糸を垂らしてから小半時もした頃だろうか。穏やかな表情をたたえた同好の士がやってきて、私の横に座ると、同じように糸を垂らした。

気分転換にきた釣り人同士だ。釣った魚の数や大きさを競うような慌ただしさもない。私たちは、釣りをしながら、たわいもない話をし始めた。

釣り船を転覆させた怪魚の話、伝説の釣り竿職人の話などなど、いつしか私は仕事のことなどすっかり忘れて、子どものように夢中になって彼と語らった。それはいつになく楽しいひと時だった。

ただ、残念なのは、獲物が錆びついた金属器ばかりということだった。生きた獲物が、ザリガニ1匹かからないとは、どうしたことだろうか。

3個目の「錆びたサブリガ」を釣りあげたときだった。さすがに嫌気がさして私が舌打ちすると、お隣さんがにこやかな表情をたたえたまま教えてくれた。

なんでも最近、獣人たちが古くなった金属器を夜な夜な湖に捨てているというのだ。獣人相手にモラルを問うたところで仕方がない。かといって、このまま放置するわけにもいかず、釣り師たちの間でも、大変話題になっている問題だそうだ。

どうやら私は、魚を釣っていたつもりが、それと知らずに湖の浄化に協力していたらしい。

事情が分かった以上、魚は望むべくもない。さしたる目標もなく釣りをしていた私は、それも一興と、早速標的を錆びたゴミに切り替えた。

「魚だって、邪魔なものが多ければきっと落ち着かないだろう」などと私は隣人に話して、笑いあった。

夕日が沈む頃、私の後ろには錆びた金属器が山のように積まれていた。不思議だったのは、これらのゴミが釣れる度に、魚たちの喰い付きもよくなっていき、最終的に魚の方もまずまずの釣果となったことだ。

ゴミを拾うことが、結果的に魚たちの住処を片付け、彼らの行動を活発にした、ということだろうか。

ここでふと編集部の光景が脳裏に浮かんだ。

忙殺されるままに整頓もせず、雑然とした私の机だ。私はそそくさと立ち上がり、慌ただしく帰りじたくを整えると、お隣さんに別れを告げた。 なぜ気がつかなかったのだろう。

あんなにゴチャゴチャした机では、魚と同様、落ち着けるわけがない。仕事に集中できなくて当然だったのだ。それが小さなミスにつながっていたに違いない。

私はジュノの編集部へ飛んで帰ると、早速、夜を徹して机を整理した。

それから数日が過ぎた。釣りによる気分転換と、見違えるばかりに整理された机のおかげだろうか。私はミスが減ったばかりでなく、執筆作業もこうして順調にはかどっている次第である。
Ainworth

戻る