出来事 冒険者たちへ ささやかなプレゼント

“冒険者さんありがとうキャンペーン”が、各地で行われている。イベントの進行役であるモーグリは、期間中に訪れた冒険者に、ささやかなプレゼントを渡しつつ、なにやら秘密の情報を耳打ちしているらしい。

モーグリたちがプレゼントを配布している場所は、4大都市、それに旅の中継地点として利用されている3つの巨岩などにまでおよび、キャンペーンは大々的に行われているようである。

写真 しかし、これだけ話題となっているにもかかわらず、意外にも主催者が何者なのか、一切明らかになっていない。

本紙の取材に対して、進行役であるモーグリたちは「守秘義務があるクポ」と言って応じないうえ、ジュノ大公国をはじめとする各国の報道官は、このキャンペーンとのかかわりを完全に否定しているからだ。

ただ、この謎のキャンペーンも、主旨だけなら誰にでも納得できるものだ。今日、ヴァナ・ディールに住む多くの者にとって、冒険者が生活に不可欠な存在となっていることは確かだからだ。

たとえば、街道を往来する商人や、定期船の乗船客は、そこに出没するモンスターを冒険者が撃退しているからこそ、旅の安全が確保されているのは間違いないだろう。

また、冒険者が合成によって作成したり、遠地から持ち帰ったりした品々は、競売やギルドによって一般市民にも流通し、各国の経済振興に一役買っているのも事実だ。

そして、なにより獣人に脅かされ続けている辺境の人々にとっては、冒険者の活躍がなければ、1日たりとも生き長らえることさえ難しいのが現状なのだ。

このように、人々が冒険者に対して感謝の気持ちを抱く理由は、それこそ無数にある。それを“どこかの誰か”が、行動に移した可能性は十分あるのではないだろうか。

この“冒険者さんありがとうキャンペーン”に対する意識調査を、4国の住民に行ったところ、やはり好意的に受けとめている意見がほとんどだった。

「こないだ、街道でオークに襲われたんだよ。オークに。戦ってかなう相手じゃないし、必死で逃げたって、連中の獣みたいな足腰にゃ到底かなわない。

“もうだめだ!”って思ったとき、後ろからすごい轟音がしたんだ。それで恐る恐る振り向いたら、ビックリしたことにオークが黒焦げになって倒れてやがった。もう、なんだか訳わかんなくなって、とりあえず家まで逃げ帰ったよ。

それで、ちょっと落ち着いてから、記憶をたどってみたら、逃げながら角を曲がった時に、ちんまりとしたタルタルの女の子とすれ違ってたことを思い出したんだ。きっと彼女は冒険者で、なんとか魔法ってので助けてくれたんだな。

お礼が言いたかったけど、戻ってもいるはずはないし、名前も当然わからない。ずっとモヤモヤした気持ちを抱えてたんだ。 ちぇ。こんなキャンペーンがあるんだったら、オレも一口のって気持ちを伝えたかったよ。

“ありがとう”ってさ」

各地でモーグリが配っているプレゼントには、こうコメントした羊飼いをはじめとする名もなき人々の、感謝の気持ちが代弁されているのかもしれない。

願わくば、この感謝の気持ちが冒険者に伝わり、彼らのさらなる躍進の糧とならんことを。
Ainworth

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