出来事 悩める竜騎士たちに朗報!?

名画“最後の竜騎士”がサンドリアで公開されたのは記憶に新しい。それに触発されてか、昨今、飛竜との契約に成功する冒険者もちらほら出てきたが、彼らは飛竜にどんな名を与えるか、ということで頭がいっぱいだという。

竜騎士は、最初に資格あるものとして認められた時、生まれて間もない飛竜に命名する栄誉を与えられる。そして飛竜は、この時与えられた名を生涯忘れることなく、主人との間に固い絆を育んでいく……。

かつてサンドリアで、竜騎士たちに受け継がれてきた命名の儀式は、現代の冒険者にもきちんと引き継がれているようだ。

ところが彼らの中には、このような嘆きを寄せる者もいる。

「飛竜と過ごすうちに、気がついてしまったんだ。甘えん坊のあいつには、サンドリアの英雄のごとき凛々しい名が不似合いなのだと……」

「聞いてくれ。私の飛竜は、どうやら雄だったらしい! なのに私は、あのかわいらしいしぐさを見て雌だと勘違いし、うっかり初恋の女性の名をつけてしまったのだよ」

記者には、それほど気にすべき問題ではないように思えたのだが、当の本人たちは一様に深刻な面持ちをしていた。そう、いったん飛竜に与えてしまった名は、何があっても生涯呼び続けるしかないものと、誰もが思っていたからだ。

ところが最近、こんな噂が巷を駆けめぐり始めた。

「飛竜の名をつけ替える謎の人物がエルシモ島に現れたらしい」

記者は、噂の真相を確かめるべく、ある竜騎士の青年に同行して現地へ赴いた。そして幾多の危機的状況を乗り越えた末に、ようやくその人物とノーグで接触することができた。

飛竜の名をつけ替えてくれるというその人物は、少々意外なことに、年老いたエルヴァーンの女性だった。さっそく竜騎士の青年が申し出てみたところ、その女性は法外な手数料を要求してきた。

「仕方あるまい。これで、あいつに似合う名をつけてやることができるのなら……」

そう言って、青年が手数料を支払うと、彼女は新しい名の候補を次々と挙げ始めた。昔の竜騎士たちが好んだ勇ましい名や、戦詩にも登場する美しい名……。

そればかりではない。中には、飛竜の名としては耳にしたことがないものも、数多くあるではないか。

青年は、さんざん迷いながら愛する飛竜のための新しい名を選んだ。

命名そのものは、あっという間に終わった。

「……新しい名なにがしをもって、御竜と再び契約せん……」といったようなことを、その女性がぼそぼそと短く唱えたのを、かろうじて聞き取れただけだった。

この謎多き女性の素性に興味を持った記者は、いろいろな質問をしてみたが、彼女は自分のことに関しては、黙して語ろうとしなかった。

しかし、連日連夜の取材を敢行したところ、ついに彼女は音を上げ、ある時、ぽつりぽつりと語り始めた。

その時の話によれば、飛竜の名をつけ替えるためには、まず元の名をきれいに忘れさせてから、新しい名を刷り込んでやる必要があるという。

写真 そして彼女は、その秘法を継承している唯一の人物であるらしいのだ。

彼女は、おもしろいことを教えてやるから、これを最後にもう来ないでくれと言って、次のようないくつかの名を小声で告げた。

「Mikan」「Raiden」「Lady」「Hien」「Firewing」「Max」「Lumiere」「Oboro」「Sasavi」「Azure」……

何とこれらは、昨今の竜騎士たちに流行している飛竜の名だという。

無論この先、時代の移ろいと共に、どんな名が人気を博するのか、誰にもわからない。あえて珍しい名を求める者もいるだろうし、中には飛竜の成長に合わせて、幾度も名をつけ替える者すら出てくるかもしれない。

そして、当然、自らが飛竜に与えた名を神聖視して、初めの名を貫き通す者も少なくないだろう。

いずれにしても、その選択は今や個々の自由。竜騎士たちの価値観にゆだねられることとなったのだ。

だが、少なくとも、記者が同行した竜騎士の青年は、新しい名で飛竜を呼んでみては、いかにも満足そうにうなずいていた。
Rirukuku

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