読み物 水晶夢宙

パブ「ゴブリンズ・ゴブレット」で、“もし、自分が冒険者だったら”という話題で盛り上がった。誰にだって向き不向きはある。それが冒険者としてならどうかという、いわゆる性格判断である。

武器を手にして戦うか、盾となって仲間を守るか、難解な魔法を駆使するか、はたまた自分の特技で我が道をゆくか。

あいつなら“どれ”、そいつなら“これ”と、言い合いながら、あてはめるのはなかなか楽しいものだった。やがて、私のことに話が及んだのだが、その場にいた全員が、口々に同じようなことを言った。

要するに“モンスターと仲良くなるようなヤツ”だそうである。

なるほど。新聞記者なんて仕事を長くやっているせいか、意志の疎通は得意な方だ。それは人だけではない。昔から、言葉の通じない獣人や言葉をもたない動物でも、仕草や表情からなんとなく考えていることを読み取ることができたのだ。

ここに集まる怪しげな連中も、この特技のおかげで仲良くなれたようなものだった。

その意見は、私にぴったりに思えた。ふむ、悪くない。少し調子にのった私は、翌日、サンドリア市街への取材ついでにロンフォールの森に寄り道して、冒険者の真似事にチャレンジしてみた。

その結果はというと、散々だった。3度も殺されかけたのだ。

サンドリアカロット片手に野兎へと近づき、仲良くなろうといろいろ試したのだが、何がいけなかったのか次々と怒らせてしまったのだ。

1度目は、小さな飛竜を従えた竜騎士に助けてもらった。2度目は、青く輝くカーバンクルを連れた召喚士に救われた。そして3度目には、野兎が歯を剥いて私に噛みつこうとした瞬間、そいつを“あっ”というまに虜にしてみせた獣使いが登場した。

“生兵法は大怪我のもと”とはよく言うが、それがきっかけで彼らと話ができたのだから、記者としては“怪我の功名”と言うべきか。

冒険者の体験談ほど、聞いておもしろいものはない。命の恩人たちは、それぞれ人にあらざる相棒との馴れ初めを嬉しそうに語ってくれた。

私にはどれも興味深い話だったが、特に獣使いが話の合間に“噂の人参汁”を地面に置いて、“早耳のシュテフィー”を呼び出してみせたのには、心底驚くと同時に拍手喝采をした。

そして、彼らと過ごした間に、パブの連中の私への評価が正しかったことも明らかになった。なぜなら小さな飛竜や、カーバンクル、そして“早耳のシュテフィー”、皆一様に、彼らの主たちが驚くほど、私によくなついたからだ。

結局、私は“冒険者以外”の職業で、“モンスターと仲良くなるようなヤツ”に向いていた、ということのようだ。
Ainworth

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