出来事 収集家垂涎? 異色の装備品

「このところ、珍しい能力をもつ装備品を身につけた冒険者を目にする機会が増えた」

この世界のあらゆる装備品を競売所やバザーで買い集めている、いわゆる“収集家”から、このような情報が寄せられた。

ジュノ上層の「ヴィエット高級武具店」の仕入れ係でもある彼は、昨今の装備品事情について、こう語った。

「僕はいつも店の奥から常連客を眺めているが、最近の冒険者たちは珍しい品を身につけていることが多くなったな。たとえば高ランクの官給品の類だとか……」

これに該当するのは、神殿大騎士だけに授与されるというサンドリアの飾り襟や、共和軍の千人隊長だけに支給されるというバストゥークの高級手袋、警護隊士のみに元老院が魔法を封じてくれるというウィンダスの指輪などだ。

注目すべきは、これらの装備品が秘められた本来の力を発揮するためには、特定の条件を満たす必要がある、という点だろう。

たとえば、装備した者が“他国支配地域”で活動していること、あるいは“自国支配地域”で活動していることなどである。

このような特殊な官給品が投入された背景には、獣人への対策強化という目的があることは確かだろう。だが、3国の真の狙いは別のところにあるはずだ、と囁く者も少なくない。

この話について、収集家の彼に意見を聞いてみたところ、彼は深く頷いて次のように答えた。

「同感だな。各国が冒険者たちに、ああいった特殊な官給品を与えはじめたのは、間違いなく自国領地の拡大に的を絞ってのことだ。

コンクェスト政策だなんて大義名分を掲げたところで、とどのつまりは陣取り合戦に過ぎないんだからな」

また男性の話によると、“陣取り合戦”用の官給品が増えた一方で、それに負けないくらいユニークな装備品が市場に出回りつつあるという。

彼は、最近競売所やバザーなどで目にしたという、その種の品々について話を聞かせてくれた。

代表的なものとして、まず挙げられたのは、マンドラゴラの光合成さながら、晴天時のみ白魔法リジェネと同様の効果を得られる両手棍、「サンライトポール」だ。

反対に、雨天時だけ命中または回避能力が上がる、「五月雨」という名のついた装備品も幾種かあるそうだ。

「バットピアス」と呼ばれる耳飾りは、装備した者が暗闇状態になった時に限り、その聴覚を研ぎ澄まし、回避能力を高める効果があるという。
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腰に締めると、なぜか麻痺状態の時だけ攻撃間隔が短くなる、「フラジラントロープ」という名の謎めいた荒縄。これには、幾多の苦行者たちの血と汗が染み込んでいる、という逸話があるとかないとか……。

睡眠状態に陥った際、ある能力を発揮するという噂の首飾り「オポオポネックレス」は、冒険者の間でも話題の品らしい。

これらの品々は、我々一般市民にも購入する権利がある点が、高ランクの官給品とは違う。しかし、彼は次のように語った。

「あたり前だが、自分の稼ぎに見合わないような高値がついている品には、手が出せない。
それでも、いつか手に入れてやる、と思いながら高嶺の花を眺めるのも、また一興でね。たとえば、これもその1つだ」

すでに絶版になっている『武器・防具大全』を取り出した彼は、記者に「包丁」の項を示した。

どうやら、調理の腕前がわずかに上がるという珍奇な能力を秘めた品らしい。しかも驚いたことに、「刀」の章に載っている。つまり、これは武器の一種ということになるのだ。

「すごいだろう? 僕は忍者でもなければ料理人でもないが、こいつはいつの日か収集棚に飾りたいんだ」

彼は、ため息混じりに言うと、分厚い図鑑をゆっくり大事そうに閉じた。

彼の話が一段落したところで、記者は正直な疑問をぶつけてみた。それらは、本当に武器や防具として役に立つ代物なのだろうか、と……。

「確かにこの手の品々は、何の考えもないまま使っても、ほとんど役に立たないだろうな。しかし……」

彼は私の目を覗き込んで続けた。

「だからこそ、どんな局面でどう使うべきかと想像をめぐらせる楽しさがあるのだよ。僕なども、仕事帰りに競売所に立ち寄っては、収集家仲間やなじみの冒険者たちと知恵比べを楽しんでいる。“あの防具を使うなら、あの薬品も一緒に使えばいい”……などとね」

そう力説する彼の瞳は、まるで無邪気な少年のように輝いていた。
Rirukuku

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