読み物 水晶夢宙

「この仕事をやっていて、よかった」と思う時がある。いろんな方と出会う時もそのひとつだが、なんといっても、本紙に掲載した方の、その後の活躍を耳にした時の嬉しさは、何ものにも変えがたいものだ。

先日、以前お笑い芸人として紹介したBanchouさんの、それからの活躍について特派員から朗報を受けた。

彼は本紙に載ったことをきっかけにして、新たな決意を胸にさらなる躍進を続けているのだという。

なんでも彼のライブは、本紙を見て彼を知った他の芸人もゲスト参加するようになって、今では漫才だけでなく、独唱やダンスなど多彩な芸を見ることができるようになっているのだそうだ。

彼との面識はないが、この報告をもらった時、自分のことのように嬉しくなった。特派員の活動がきっかけで、ヴァナ・ディールのどこかで笑顔が生まれているのだから……。

また、冒険者による情報提供で、ある人物の消息を知ることができた。ジュノ上層で、フォルガンディ地方の特産品を販売していたKasim(カシム)さんである。

2回ほど取材したが、彼ほどの苦労人を私は知らない。交通の便の悪いフォルガンディ地方から産物を安定して仕入れるのは、並大抵の労力ではない、と熱弁する姿が印象的だったものだ。

しかも、既報の通り、ジュノでの貿易商の営業認可が取り消されたために、彼は街を去ることになったのである。

その後、彼がどこへ姿を消したのか知るよしもなく、旅の途中で獣人に襲われているのではないか、などと私は安否を案じるしかなかった。

そのKasimさんの“今”を聞いた時、私は耳を疑った。

なんとリ・テロア地方にある国境警備兵詰め所で、元気に仕事しているというのだ。

営業許可証を返しに商工会議所へ赴いた時、カウンターの向こうから「リ・テロア地方の詰め所に駐在する販売員が足りない」という話が聞こえてきて、彼はカウンターを乗り越えて、その任に立候補した、というのが真相らしい。

そして、Kasimさんは現在も聖地ジ・タで冒険者相手の商売を続けている、というわけだ。

なんという逞しさだろうか。

同僚によると、この話を聞いた時の私は「見たこともない、いい笑顔をしていた」という。それはそうだろう、これほど嬉しい話はないのだから。

そして、彼らにもらった喜びを糧にして、私はまた仕事に取り組める次第なのである。
Ainworth

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