出来事 ある湖畔での風景

ジャグナー森林の北端に広がる巨大な湖、メシューム湖。冒険者すら訪れることもまれな、この静かな湖畔が時折喧騒に包まれる。そう、悪名高きKing Arthroが出現の兆しを見せたときだ。

King Arthroとは、カニの王と呼ばれるノートリアスモンスターの名である。いつも配下のカニKnight Crabを数多く従えて現れる彼は、今まで湖畔に近づく冒険者たちを数え切れないほど、その自慢のハサミで血祭りにあげてきた、無敵の暴君であった。

しかし、冒険者もさるもの。多くの犠牲を出しつつも、彼の弱点の探究と有効な戦術の試行錯誤が、連綿と続けられてきた。そして、ようやく昨今になって熟練の冒険者の中に、暴君の討伐に成功した強者が現れ始めたのである。

その事実は、冒険者魂に火をつけたらしい。我も一戦交えてみたいと意気込む腕自慢の冒険者や、その一戦をこの目で見てみたいという見物客が集まるようになり、静かだった湖畔はにわかに人で溢れかえるようになったのである。そこで討伐行を取材してみることにした。

始まりはいつも静かだそうだ。幾度もの経験からくる「そろそろKing Arthroが現れる」という確信にも似た予感が、冒険者たちの中に満ちてくるらしい。すると、各地から冒険者が続々とメシューム湖に集い始めるのだ。

ある冒険者たちとメシューム湖に着くと、既に湖畔は人でごった返していた。しかし、さすがにあくまでも予感に過ぎなかったようだ。見物客が集まったからといって、悪名高い王が、ひょっこり顔を出すわけもなかった。

あまりの人の多さにさしもの暴君も腰がひけるのか、あるいはもっと人間が増えたところで一網打尽にしてやろうと企んでいるのか、高まる期待とは裏腹に、なかなか敵はその姿を見せようとしなかった。

写真 しかし、待つほうも慣れたもの。多くの冒険者たちは持参した釣り竿を取り出し、一斉に湖に向かって釣り糸を垂らす。数十名もの冒険者がずらりと並んで釣りをする光景は、まさに圧巻。

ヴァナ・ディール屈指の優良釣り場でも、ここまで釣り人で埋め尽くされることはないだろう。そこここで魚が水揚げされる音や竿の折れる音が響き、その中にまじって儲けを当て込んだ行商人の餌や竿を売る呼び声まで聞こえてくる。

この日のために持ちきれないほど準備した手製の虫ダンゴや釣り竿なのだろう。なんとしてもKing Arthroの出現までにさばきたいという意気込みからか、ついに行商人同士の値下げ合戦まで起こる始末。

普段はライバルとして競い合う冒険者グループも、王の手下であるカニの騎士が現れるまでは、ただの釣り仲間にしかみえないのも、ご愛敬だ。たわいもない世間話や、他のノートリアスモンスターの情報などを交わしながら、King Arthoの登場を今か今かとひたすら待つ。

そのうち手下のKnight Crabが湖畔に現れて一騒動起こした挙句、冒険者によって倒されると、いよいよ待ちに待った暴君King Arthoのお出ましである。それまでのんびりしていた湖畔ににわかに緊張が走る。腕に自信のある冒険者は、我先にと挑みかかり、見物客は戦いの顛末を見届けようと、危険を省みずにその場を取り囲む。

やがて死闘の末、ついに暴君が討ち果たされる。すると、倒した強者たちは次の戦いに向けて出発し、見物客は土産話を携えて、懐を温めた行商人は店じまいをして、各々家路につくのだった。こうして湖畔には誰もいなくなり、さきほどの喧騒が夢であったかのように、湖は静けさを取り戻したのである。

そして、今は美しい湖畔の風景が広がっているだけである。少なくとも、今だけは。

特派員 : Palulu / Siren

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