読み物 水晶夢宙

“天晶堂が、またなにやら怪しげな品を東方から大量に輸入した”という情報は、早い段階から入手していた。あまり期待せず、それが明らかになる日を待っていたのだが、あんな品だとは予想だにしていなかった。

花火のことである。

海賊との関係や、闇市の元締めなどと、黒い噂の絶えない天晶堂がこれを仕入れた理由は、もちろん“美しいから”ではなく、単に“儲かるから”だろう。

「“Bon-Odori”の情報を嗅ぎつけたに違いない」とは、ある冒険者の言葉だが、花火を購入した彼らが、それを楽しんでいるさまを見ると、今回ばかりは認めざるを得まい。「天晶堂も、たまにはマシなことをするものだ」と。

店をのぞいてみると、4種の花火が売られていた。そのうち、東方から輸入された「崑崙八仙」、「金剛稲穂」、「冥府独楽」の3種は有名な花火だったが、もう1種、初めて見る花火があった。「エアボーン」だ。

写真 実際に打ち上げている冒険者がいたので、側で見せてもらった。その花火は点火後、空高く舞い上がり大輪の花を咲かせた。特筆すべきは、その後だ。落下傘を開いたゴブリンの人形がフワフワと舞い降りてきたのだ。これには、素直に笑った。

この「エアボーン」を作り出したのはどこの誰だろうと思い、花火の説明書きを読んでビックリした。

なんと“ゴブリンの錬金術師が開発した打上花火”だというではないか。私の知る限り、ゴブリンという種族は、おしなべてがさつ、美的センスも乏しいと断じざるを得ない連中だ。

このユニークな花火を開発したのは、きっと彼らの中でも変り者だったに違いない。

とはいえ、ゴブリンが作り出した花火に感じ入った私は、その夜、“ゴブリンズ・ゴブレット”に行き、ゴブリンの友人たちに極上のロランベリーワインを振る舞った。

もしかすると私は、彼らも仲間が生み出した芸術品に何かを感じてくれるのではないか、と期待していたのかもしれない。

しかし、その結果はどうだろう。酒場の中で花火が飛び交い、あちこちで炸裂。おまけに、ぼや騒ぎで親衛隊にこってりしぼられる、という最悪のバカ騒ぎとなってしまった。

やはり、花火を作った錬金術師とやらは、ゴブリンの中でも相当の変り者ということか。異能の才人は世間に理解されないことが多いが、きっとゴブリン社会における彼もそのひとりなのだろう。

彼の仕事をもっとも評価したのが、今や獣人たちの天敵と目される冒険者であったことは、皮肉としか言いようがないのだが……。
Ainworth

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