「出た! 白ウサギだ!!」
いつもより満月が輝いて見えた夜、ひとりの冒険者が声高に叫んだ。
その声を聞きつけた彼の仲間たちは、あっという間に方々から駆け寄り、白ウサギを追いはじめた。
自慢の早足で追いかけるも、急な方向転換に翻弄されるシーフ。遠くから狙いを定めて追跡する狩人。ものは試しと、あやつろうとする獣使い。彼らの行動は、実にさまざまだ。
もちろん、白ウサギの通り道にも、何人もの冒険者が待ち構えている。ところが、白ウサギは彼らの包囲網ですら驚くべきスピードで突破してしまう。白ウサギを捕まえるのは、簡単なことではないようだった。
それにしても、冒険者たちは、白ウサギを捕らえて何をしようとしていたのだろうか。
めまぐるしい追いかけっこのスピードに目が慣れてきた頃、記者は意外な事実に気づいた。彼らは白ウサギと接触する瞬間、手に持った「ムーンカロット」を差し出して、半ば強引にそれを食べさせようとしているのだ。
まさか、ただの餌づけであるわけがない……。しばらくその様子を観察した記者は、ついに真実を突き止めることができた。
白ウサギは、好物の人参にかじりついた時、気まぐれに落とし物をしていくことがあった。たとえば、東方伝来の「月見団子」と呼ばれる菓子や、月の満ち欠けに影響を受けるという不思議な杖の数々など、いずれも珍奇なものばかり。冒険者たちは、その品々を狙って、白ウサギを追い続けていたのだ。
さらに彼らには、もう1つの狙いがあった。白ウサギに誘われるようにして、ごく稀に現れる猛鳥アンラッキービーク(Unlucky Beak)だ。
腕に覚えのある冒険者たちの多くは、人参をちらつかせて白ウサギの気を引きながら、実のところはこの猛鳥をおびき出そうとしていたのである。
そして、まるで彼らの挑戦を受けて立つように、猛鳥はこの夜、各地にその姿を現した。
記者自身も、冒険者と猛鳥の激しい戦いを何度か目撃することができた。
「Unlucky Beak発見。攻撃開始!」
発見者の1人が叫ぶと、すぐさま仲間の冒険者たちが武器を構える。猛鳥は、真っ赤な目で彼らを睨みつけたかと思うと、次の瞬間、凄まじい勢いで嘴を振り下ろす……。
手ごたえは、冒険者によってさまざまだったようだ。戦闘不能者を出しながら辛勝したパーティもあれば、余裕の戦いぶりを見せる単独の冒険者もいた。
アルテパ砂漠にて、見事猛鳥を倒した冒険者たちは、戦闘後の感想を次のように述べてくれた。
「ノートリアスモンスターをあまり倒したことがなかったので、わくわくしました」
(Purisukaさん)
「やっぱりチームワークですね! リンクシェルで状況をレポートしあいながら走り回っていました」(Altrosaさん)
「いきなりUnlucky Beakにつつかれて、何事かと思いました」 (Silverforestさん)
「……あれがウサギだったの?」
(Setyさん)
彼らは、明るい声で返してくれた。
取材を終えた記者が帰り支度をしていた頃には月も欠けはじめ、人騒がせな白ウサギと猛鳥も幻であったかのように姿を消してしまった。
そのことに気づいた冒険者たちも、やがて違う目的のため、方々に散りはじめた。
誰もが望み通りの結果を得たわけではないだろう。猛鳥を倒せなかったどころか、白ウサギに人参を渡せないまま終わった冒険者もいたかもしれない。
けれども、仲間たちと並んで街へ帰る彼らの後ろ姿は、記者にはとても幸せそうに見えた。
取材 : Finleen
取材ワールド : Phoenix
文 : Rirukuku
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