誰もが夢見る、一攫千金。それを叶えてくれるかもしれない新しいギャンブルが、辺境で流行の兆しを見せている。その名も「ラッキーロール」。その実態について、記者は調査を開始した。
大陸から離れた僻地、ラバオとノーグに「ラッキーロール」の元締めはいるという。ラバオといえば、一山当てようとゼプウェル島へと渡った冒険者たちが集うオアシスであり、ノーグといえば、闇貿易など金儲けの話題には事欠かない海賊たちの本拠地である。このような場所だからこそ、「ラッキーロール」も簡単に根付いたのだろう。
記者がノーグに着き、情報を集めようと桟橋の男性に話し掛けたところ、彼が元締めのレパート(Repat)さんその人だった。一見すると、どこにでもいそうな風貌だが、眠そうにも見える瞳の奥底には鋭い光があり、過酷な辺境の地で生き抜く男特有の力強さが感じられた。
彼は、記者を値踏みするようにじろりと見た後、丁寧な口調でルールを説明し始めた。
参加費用は1人100ギル。1日に1回だけ参加できる。
1回につき、サイコロを1つ振る。
出たサイコロの目(1〜6)は、ポイントとして積算されていく。
400ポイントを超えるとラッキーロール!出した参加者は、賞金10000ギルをゲットできる。
副賞に、400ポイント丁度だと「ピッタリ賞」、401、402ポイントだと「ニアピン賞」がある。
ラッキーロール後は、0ポイントから開始される。
なるほど、ポケットの中の100ギルが、サイコロ1つで10000ギルになって返ってくるかもしれないというわけだ。これは試さない手はない。
早速、参加費を支払った記者は、サイコロを握りしめ、現在のポイントを質問した。すると彼は、笑って首を横に振った。サイコロを振った後でしか、ポイントは教えてもらえないのだそうだ。
カラランカラン。
年季の入った茶碗の中で、勢いよく転っていたサイコロが止まり、新しいポイントが決定される。
「サイコロの目は……3、ポイントの合計は385になりました!」
彼は眠そうな目をさらに細めて、にこやかに笑う。
「次は、他の人の参加もあって、400ポイント以上になるかもしれませんよ」
400ポイントまで、あと少しだ。もう一度サイコロを振りたくて、早く明日になれ!と、沈む夕陽に願いかけたところで、記者ははたと考えた。
400ポイントに到達するまでには、一体何人がサイコロを振るのだろう。
サイコロの平均値を3.5とすると、115人目でラッキーロールが出る計算となる。つまり100人分の参加費用がラッキーロールを出した人に、残りの15人位の参加費用が元締めの懐に転がり込む寸法だ。
賞金の15%というと、元締めの取り分としては悪くないように思えるが、「ピッタリ賞」などを考えると、赤字となってもおかしくない。彼はなぜ、元締めをやっているのだろう。
記者がそんなことを考えている間にも何人かの冒険者が彼に100ギルを支払っていった。
やがて、脇で「わっ!」と歓声が上がった。ラッキーロールが出たのだ。喜ぶ冒険者に賞金を渡すレパートさんの表情も、心なしか少しほころんでいるように見えた。
はしゃぎながら去っていく彼らを見送った後、何を思ったのか、彼は鞄から1枚のコインを取り出すと、指の間で器用に回して見せた。そして、抑揚のない低く澄んだ声で、静かに語り始めた。
「表と裏、裏と表。本音と建前、嘘と真実……」
どのような意味か質問しようと息を呑んだ瞬間、見透かしたように彼は言葉を重ねた。
「他の人がためたポイントを最後においしくいただくのも、他の人をだましてポイントをためさせるのも自由。恨みっこなしです。ここは辺境の地なのですから」
その言葉を聞いて、なんとなく理解できた気がした。辺境に足を運ぶ者で、一攫千金を夢見ない者はいない。しかし、その夢を実現できる者は一握りしかいない。
それは「ラッキーロール」も同じことだ。
彼はきっと、ノーグを訪れた人々の人生そのものを眺めることが楽しくて、元締めを続けているのだろう。
自らが託した100ギルが、先ほどの冒険者に幸運をもたらすことを祈りながら、記者はノーグを後にした。
次にラッキーロールを出すのは、あなたかもしれない。
Jahoy-Magoohoy