シルクのクロークを身にまとい、街路に立つその男は、雑踏の行商や冒険者とは違う、不思議な雰囲気を漂わせていた。
近頃、噂の占い師だ。
まずは一度占ってもらおうと声をかけたところ、「誰かとペアを組んでまた来るように」と、あっさり断られてしまった。相性占い専門のよう だ。仕方なく、彼の隣で訪問者を待つことにした。
道行く人のほとんどは彼を気にも止めず、ただ通り過ぎていくだけだった。しかし、やがて彼に話しかける冒険者が現れた。
ヒュームのYoshuaさんと、タルタルのRineさんだ。
「毎日を楽しく過ごしています」と、幸せそうな笑顔で語る2人は、種族の壁を越えて将来結婚を誓い合った仲だという。
占いを終えた彼らに、結果を尋ねてみたところ、このように告げられたとのこと。
【吉:幸せを2人だけのものにするのでなく、他の方にも分けてあげましょう。】
Yoshuaさんは、その言葉をじっくりと噛みしめているようだった。
「今ある幸せも、自分達だけで手に入れたものではないですからね」
これまでの冒険の日々を振り返って、しみじみと語る彼は、Rineさんだけでなく周囲の仲間も幸せにできる、心優しい男性であるように思えた。
次に占い師を訪ねてきたのは、日頃は連れ立って冒険や釣りに出掛け、時にはライバルとして競い合うことも楽しんでいるという2人だった。
【小吉:2人で力を合わせれば怖いものはありません。どんな困難にも打ち克つ強さをお持ちください。】
この結果に激しくうなずきながら、不敵な笑みを浮かべていたのはKenyaさん。
「今の2人なら、海の魔物として恐れられるシーホラーにも勝てそうな気がしますよ!」
放っておけば、そのまま退治に出かけてしまいそうな勢いだ。
相棒であるMayocさんは、彼の傍らでやれやれと肩をすくめて笑っていたが、内心はまんざらでもない様子。2人の普段の楽しいやり取りが、目 に浮かぶようだった。
彼らが発った後も、さらに何組かの冒険者達が占い師を訪ねてきた。
「面白そうだったので、その辺にいた人に声をかけて一緒に占ったら、大吉だったよ。景品までもらえて得した気分」
「2人の仲を進展させるにはどうしたらよいのか、もっと具体的に教えてくれるとよかったのですが……」
「結果は大凶でした。でも、男同士だったから、ヘタに大吉とかじゃなくてホッとしたかな。あはは」
笑い飛ばす人、苦情めいた感想を述べる人、素直に納得している人など、占い師の言葉への反応は様々だったが、皆それぞれに占いを楽しんでいる様子だった。
それにしても、占い師は何故さほど利益があるとも思えない、この商売を始めたのだろう。人々を楽しませることだけが目的なのだろうか?
この素朴な疑問を解き明かしてくれたのは、次にやってきたRaivranさんとMyigomaさんの2人だった。
Raivranさんは、バルクルム砂丘で瀕死の重傷を負っていたところをMyigomaさんに助けられたという。冒険者らしい馴れ初めだ。
占いの前に、Raivranさんは言った。
「たとえ、どんな結果でも彼女に対する僕の愛は変わりませんよ」
結果はというと、まずまずとのこと。少なくとも、大吉ではなかったようだ。けれども、2人はその結果にますます熱くなっていた。
「結果が悪ければ、それだけ燃えるというものです。負けませんよ」
その時、占い師の髭がフードの影でわずかに上がったように見えた。
なるほど。占いを信じるかどうかは別としても、占い師の言葉に元気づけられることはありそうだ。2人に告げられる占いの結果は、彼らからの助言や忠告であるだけではなく、おそらくエールでもあるのだ。
もし、あなたに大切なパートナーがいるなら、共に占い師のもとを訪ねることをお勧めしよう。
結果はどうであれ、きっと彼らの言葉が、2人の絆をより強いものにしてくれるに違いない。
特派員 : Storm / Kujata