「お姉ちゃんが、全部売ってくるまで帰ってくるなっていったニャ」

目にした者が、思わず「早く完売しますように」と願わずにいられなくなる看板。これは、ジュノ港の片隅でバザーを開いていたミスラのIxlさんが店先に立てていたものである。

路上でバザーをする人々が集まっているのは、各国の街中でも人通りの多い一角。委託販売の競売所とは異なり、それぞれの店主が切り盛りしているこれらの露店には、思い思いの看板が出されている。

「いらっしゃいませ!」や「合成承ります」などの看板を控えめに立てている店もあれば、一面に絵が描かれた看板を飾っている店もある。

店主が書き換えを忘れているのか、パイを販売しているのに「魚屋」の看板を、ジュース1本しか店に残っていないのに「この品揃えを見よ!」という看板を堂々と掲げている店もある。

このように、ただ見ているだけでも楽しめそうなバザーの看板であるが、実際のところ、店主と利用客はそれぞれどのように考えているのだろうか?

まず店主達に話を聞いた。品揃え同様、彼らは看板に対する関心も高いらしく、「取り扱っている商品の種類を統一して看板にわかりやすく示す」という回答が多くみられた。

商売で大切なのは、魅力あるラインナップと価格。そして何よりも誠実さ。しかし、商品の売れ行きを左右するのは、看板に書かれた屋号や売り文句であるというのだ。

たとえば、「フルーツショップ」「ガラクタ屋」「競売所より串焼の安い店」などのように、店の特徴をわかり易く記した看板には、それらを必要としている客が集まってくる。

また、単にわかり易いだけでなく、見る者を和ませる看板もある。

実際ジュノでは、「クリスたる屋」(クリスタルを取り扱うタルタルの店)、「爺の弾薬庫」、「ナマモノカラワレモノマデ」などといった店主のユーモアが見え隠れする看板をいくつか見つけることができた。

一方、バザーの利用客側からの回答には「もっと遊び心のある看板で楽しませてほしい」などの意見が見られたが、いちばん多いのは「もっと詳しく商品説明を書いてほしい」という要望だった。

冒険者達は、世界各地で多種多様な食物や武具の類を手に入れてくる。

そのため、彼らの開くバザーには、見たこともないような品物が並んでいることが多い。確かに、それぞれの効果や用途などが看板で説明されていた方が、安心して商品を手に取ることができる。

店主と利用客の考えは、それぞれ納得のいくものである。しかし、看板の大きさは限られているだけに、そこで語るべきものを見極めるのは、なかなか難しそうだ。

最後に、ウィンダスで出会った、ある店主をご紹介しよう。

森の区で釣りをしていたHimettiさんは、旅先で入手したという靴をバザーに出していた。看板には「靴屋」の2文字のみ。他には何も書かれていない。売れ行きについて尋ねると、彼女は、のほほんとした調子で答えた。

「売れませんねぇ」

このマイペースな店主の関心は、バザーの売れ行きや看板などにはなく、ただひたすら釣り糸の先に向いているようだった。

看板を見くらべれば、店主1人1人の顔が違って見えてくる。だから、看板はおもしろい。

さあ、滅多にバザーを利用しないというあなたも、個性あふれる看板の数々をご覧あれ。

競売所とは一味も二味も違った温かさを感じられるはずだから。

特派員 : Mizakura / Quetzalcoatl

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