とある冒険者は「散らかり放題だったはずのモグハウスが、やけに広々と感じられるようになった」と首を傾げた。職人冒険者たちは「気のせいか、合成に失敗した時、材料が残ることが多くなった」、「苦手な分解に失敗することが減った」などと、方々で語りはじめた。

このような小さな変化を体験した人々には、ひとつの共通点があった。

みな、調度品の愛好家だったのだ。彼らは口を揃えて言った。「趣味でコレクションしていた調度品に、ウチのモーグリが何かしたようだ」と。

この噂は冒険者の間で口づてに広まり、瞬く間に空前の調度品ブームへと拡大していった。

いったい調度品に何が起こったのか? 事の真相を突き止めるため、記者は、各国のモーグリたちに話を聞いて回った。彼らから集めた証言は、次の通りである。

「ご主人さまが調度品を買い足してくれたクポ〜。うれしいクポ〜」
―サンドリア Kさん宅のモーグリ

「調度品のこころがわかったクポ。みんなクペルシャン(Kupelcian)さんのおかげなのクポ」
―バストゥーク Hさん宅のモーグリ

「ご近所さんに教えてもらって、調度品の不思議な力を引き出せるようになったクポ♪ さいしょに発見したクペルシャンさんは天才クポ♪」
―ウィンダス Pさん宅のモーグリ

取材に応じてくれたモーグリのうち、何人かが名前を挙げたクペルシャンという人物に、記者は関心を抱いた。

彼について質問すると、モーグリの1人はあきれたような顔をした。

「クポ? 今どきクペルシャンさんを知らないなんて相当モグリだクポ! 北サンドリアはジュスティ家具店のお抱え職人さんクポ。エルヴァーンかって? ちがうちがうクポ。彼は人間じゃないクポ。モーグリクポ〜」

世のモーグリたちに、新たな知識を与えた職人、クペルシャン氏……。彼に会うため、記者はジュスティ家具店を訪れた。

だが、カウンターに立つエルヴァーン女性にクペルシャン氏を取材したいと伝えたところ、困ったような顔で、こう返されてしまった。

「クペルシャンは確かにこの店の職人で、今も奥の作業場で仕事をしています。ですが彼は寡黙で、とても繊細なモーグリなので、見ず知らずの人間とは決して話しません。この店で長く働いている私でさえ、最近になってやっと声をかけてもらえるようになったくらいですから……。どうぞ、そっとしておいてやってください」

本人の取材を断念した記者は、クペルシャン氏にまつわる噂について、この女性に尋ねた。

「その話なら、お客様から聞いたことがあります。クペルシャンは、誰よりも調度品を愛する職人ですから、本当に調度品の心がわかるのかもしれません。ただ、本人が多くを語ろうとしないので、はっきりとしたことは何もお答えできないのです」

礼を述べて店を辞そうとした時、記者は彼女に呼び止められた。

「クペルシャンの幼なじみクパチャノン(Kupatchanon)なら、何か知っているかもしれません」

クパチャノンとは、彼が唯一心を開いているモーグリらしかった。記者は、クパチャノンのいるモグハウスを訪ね、主人である冒険者に許可をもらってから、彼に話を聞いた。

――昨今の調度品ブームについてお伺いします。あなたの幼なじみのクペルシャン氏が関与しているという話は事実ですか?

「クペルシャンがきっかけを作ったのは本当クポよ。ご主人さまの栽培が失敗続きでなやんでいたとき、あいつに相談したクポ。そうしたら意外なアドバイスをもらえたのクポ」

作りのよさそうなオークテーブルを丁寧に磨きながら、彼は続けた。

「“もっと調度品をたいせつにして、友だちになるクポ。いいクポ? 職人たちが真心をこめて作った調度品には、魂――属性力があるクポ。調度品に心で語りかけ、その内なる声に耳をかたむければ、きっと力を貸してくれるクポ。おまえもモーグリの端くれなら、きっとうまくできるはずさ……クポ”って」

アドバイスに従い、クパチャノンはその晩から調度品との対話を試みた。そして、ついに調度品の魂を体で感じた、と思った時だった。部屋の片隅でしおれかけていた植木鉢の植物が、にわかに生気を取り戻し、見事に花を咲かせたのだ。

ちなみに、彼は別の恩恵もこうむっていた。何でも、調度品と対話を試みるうち、これまで気づかなかった収納スペースまで発見したとか。

そのおかげで、常に武具や栽培用品でいっぱいだった金庫にも余裕が生まれたらしい。

「クペルシャンのおかげで悩み解消、おまけにモグハウスすっきり! ご主人さまもごきげんクポ。持つべきものは、いいモグ友クポね」

調度品の素晴らしさを知った彼は、近所のモーグリや故郷の仲間たちにクペルシャンの言葉を伝えたという。それからは、モーグリ独自の情報網により、彼の話はわずか数日でヴァナ・ディール各地に広まっていった。

モーグリたちの起こした小さな奇跡を知り、それまで調度品に関心の薄かった冒険者たちも、我先にと家具屋や競売所へ走った。その様子を見た木工たちは、この波に乗り遅れまいと、売れ筋商品の製作に専念した。

競売所で調度品の取引数が記録的に伸びた裏側には、このような事情があったのである。

それにしても、クペルシャン氏自身は、この調度品ブームをどのように受け止めているのか? 思うに、彼はいつもどおり調度品たちに語りかける日々を過ごしているのではないだろうか。自分が、ブームの中心にいることすら知らないまま……。

Nolvillant

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