ジュノ商工会議所が発行した統計白書によると、このヴァナ・ディールで冒険者という職業を選ぶ人の数は、今もなお増加傾向にあるという。

最近、新米冒険者として街へやってきた若者について、ある先輩冒険者は次のように語った。

「ある日、バストゥークに立ち寄ったら、冒険者になりたての男女に呼び止められて、道案内を頼まれたの。彼らを連れてあちこち歩くうちに、以前の自分を思い出しちゃった。あの頃は右も左もわからなくて、どこに行くにも迷ったし、何をするにも戸惑ったものだわ」

鎖帷子に身を包んだ、このヒュームの女性は、当時を懐かしむように目を細めた。

「私だって、ついこの間までは新米冒険者の1人だった。だから彼らの戸惑いを理解できるし、手を貸せたらって思うのよ。でもね、誰がどこで助けを必要としているのか、私たちからでは気づきにくいの。どうしたらいいのかしら?」

何の偶然か、彼女を取材した翌日のこと、ヴァナ・ディールに非政府組織が誕生したことが発表された。
それは、“熟練冒険者の養成”という共通の目的をもった冒険者と商人によって設立された組織。その名も、Adventurer's Mutual Aid Network(冒険者互助会)、通称A.M.A.N.だ。

この組織の審議をパスして認定された冒険者はMentor (メンター)と呼ばれ、新米冒険者のよき助言者として活動することとなるらしい。

新米冒険者を熱心に指導する熟練冒険者の姿は、以前より目撃されてきた。彼らの活動に賛同する者も少なくなかったのか、助け合いの精神は少しずつ、だが確実に、冒険者たちの間に浸透しつつある。A.M.A.N.誕生には、そのような時代の気風が反映されているのだろう。

では、商人側にはどんな事情があったのか? 記者は、彼らが熟練冒険者の養成に関心をもった真意を探った。

「私ら商人にとっちゃ、新米さんこそ期待の星なんです。なぜかって? そりゃ、決まってるじゃないですか! 腕っ節の強い冒険者が増えれば増えるほど、安心して商売できるようになるからですよ」

こう語ったのは、北サンドリアの露天商に特産品を卸している男性。

彼は主に、バルドニア産のセージやシモカブなどを現地で調達し、自分の足で街まで運んでいるという。

「いいです? 売り上げ以前に大事なのは、てめえの“か・ら・だ”なんですよ、お嬢さん。道すがら得体の知れない魔物どもにからまれたりしちゃ、それまでの苦労が水の泡ですからね。実際、荷物を捨てて命からがらくらいでして」

飛空艇やチョコボを利用できる区間なら心配は要らないが、人もまばらな土地に出向く彼の場合、話は別。何よりも道中の安全が重要らしい。

「新米さんには、1日も早く凄腕冒険者の仲間入りをしていただきたいもんですね。でもって、街道のモンスターどもをコテンパンにのしていただけると、具合がいいわけですよ。……ついでに、私の商品を買ってくださると、もっといいんですがね」

にやりと笑ってみせた彼は、仕入れに行くと言って、街を発った。

その後、記者は考えた。商人たちは、街道の安全確保だけのためにA.M.A.N.の設立に協賛したわけではない。おそらくはヴァナ・ディール経済の成長を見据えて有益と判断したのだ。

熟練の冒険者ともなると、商人が逆立ちしてもかなわないようなモンスターを退治してくれると同時に、そこで得た貴重な素材をバザーや競売所などを通じて提供してくれる。さらに職人冒険者たちが、それらを合成すれば、優れた品々が生まれる。

それだけではない。何より冒険者たちは、このヴァナ・ディールにおいて、消費者としての役割をも十二分に担ってくれているではないか。商人たちの期待を裏切ることなく……。

いずれにしても、市場の活性化に一役も二役も買っている冒険者に商人たちが未来を託しているからこそ、A.M.A.N.の誕生が実現した。それは、間違いないだろう。

ところで、A.M.A.N.の活動に賛同する熟練冒険者たちが、いざMentorとしてデビューしようという時は、どうしたらいいのか?

答えは、簡単。3国の街角に立つMentor審議員に、直接申し出ればいいのだ。

「大丈夫です。難しい試験などは一切ありませんので」

そう言って微笑んだのは、Mentor審議員の1人としてドラギーユ城の前に立つエルヴァーンのエメージェ(Emeige)さんだ。

「一定条件を満たしている冒険者のみなさんなら、どなたでもMentorとして登録することができます。拘束時間についても、ご心配なく。Mentorとして活動できる時だけ、ご自身でその意思を表明できるような仕組みが用意されております」

つまり、自分の事情に合わせて活動時間を選べるらしい。それならば、多忙な日々を送る冒険者であっても、自分のペースで活動に参加できるかもしれない。

Mentorたちに助けられた若き冒険者たちが、やがて立派に成長した時、自らMentorとなって、初々しい後輩たちに手を差し伸べる……。

そんな未来を想像しながら、記者は思わず笑みをこぼしている自分に気がついた。

Rirukuku

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