ある朝、モグハウスのポストをのぞくと、小包が届いていた。ラベルには、すっかり見慣れてしまった競売所のスタンプが押されている。あぁ、またか、トホホ…。やはり中身は、競売に出してもなかなか落札してもらえない武器だった。

きっと、他の冒険者たちもいろいろなトホホを体験しているに違いない。そう思ったが吉日。さっそく話を聞いて回ろうと、モグハウスの外に出たところ、高額の報酬を提示しつつテレポタクシーを探す声が耳に飛びこんできた。声の主ことシーフのSirokumaさんを探し出して話を聞いてみると、彼は慌てた様子で事情を説明しはじめた。

なんでも、北のズヴァール城にて、とあるデーモンを待ち伏せようと入念に準備していたにもかかわらず、うっかり寝坊してしまったのだという。ああ!奇跡の出会い! これぞまさしく求めていたトホホではないか。

早速彼と交渉し、無料でテレポを請け負う代わりに、現地まで同行取材をさせてもらうことになった。

しかし、結局その日、彼の狙うデーモンは姿を現さなかった。よくある話とはいえ、これまたトホホである。

再会を約束して彼と別れた後、他の冒険者たちにも体験談を聞いてみた。

「官給品を着ていた修行時代に、魔道士と間違われて狩りに誘われたことが。誘ったリーダーもいっしょにトホホでした」 Kaientagさん

彼の出身国であるウィンダスは魔法の国。官給品も魔道士風のものばかりなのだ。

「獣使いの専門性がなかなか理解されず、いつも人けのない所でこっそり狩りを……。トホホ
Yuwaさん

獣使いは独特のスタイルで戦うことで知られている。たとえば、旅先で複数のモンスターに道を阻まれた時などに、彼らに助けてもらったという冒険者も多いのではないか。

「カザムに行ったとき法外な金額で海賊の宝の地図を買わされてしまって、トホホ……」
Seshiruさん

おお!勇気ある決断! あの甘い言葉に惑わされた冒険者なら、ここにもう1人いる。トホホ……。

「修行時代にはうまく歌えないことも多く、メンバーをガッカリさせてトホホ……、なんてことも。練習を重ねて戦いに臨んだら、バラードだけ歌ってくれればバッチリですと言われ、それもまたトホホ……」
Chronaさん

吟遊詩人にとって一番トホホなのは、歌を聞いてもらえないことだろうか。ここからサビなのに! というときに。

「やっとのことで限界じいさんを倒せたかと思ったら、直前に盛られた毒で力尽きてしまって……。じいさんは、勝利とは認めてくれないし。トホホ……」 Gallveさん

試合に勝っても勝負に敗れる。この世には、そんなこともあり得るのだ。

「宝箱を見つけて大喜びでカギ探し。だけど、カギを手に入れたときには、すでに箱はからっぽ。トホホ……」 Juliさん

宝箱のカギは数が増えると金庫を圧迫するものであるが、もったいなくて捨てられないのが人情。どうすればいいものやら。トホホ……。

ところで、彼らの話を聞くうちに気がついたことがある。自らのトホホ体験について語る時、ほとんどの冒険者が嬉しそうな表情を浮かべているのだ。まるで、自慢話でも聞かせるかのように……。

果たして、彼らが笑顔で語るのは、なぜか? 彼らにとってトホホ体験とは、いったい何なのか?

取材に応じてくれた冒険者のうちの1人、白魔道士のBaptizeさんの話には、そのヒントが隠されていた。

ある日、採掘で一山当てようと夢見てグスゲン鉱山を訪れた彼は、坑内で凶悪なモンスターと遭遇し、命からがら逃げ出した。

だが、おかしなことに、彼はそんなトホホ体験にめげるどころか、足しげく鉱山に通うようになったという。

それから月日が流れ、Baptizeさんは冒険者として腕を上げた。

そして、グスゲン鉱山のモンスターたちが、すでに自分の敵ではなくなったことに気づいた時、彼は鉱山通いをぱたりと止めてしまったのだそうだ。

取材の当日、傷だらけの顔で現れた彼は、照れくさそうに笑って言った。

「さっきイフリートの釜で採掘していたら、周りのモンスターにボコボコにされてしまってね」

どうやら彼は、かつてグスゲン鉱山で味わったスリル満点のトホホ体験を忘れられず、今も別の場所でそれを楽しんでいるようだった。

彼の背中で光る真新しいつるはしを眺めるうちに、こう確信した。

トホホ体験。それは、日々の冒険をピリリと引き締める特別なスパイスなのだ、と。

取材を終えて帰宅し、わが夫にもトホホ体験を聞いてみると、こんなひと言が返ってきた。

「結婚式に花嫁が遅刻したこと」

これには、返す言葉もなかった。

特派員 : Myhal / Gilgamesh

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