夜空に大輪の花が咲きほこった。バストゥークの火薬ギルドが開発した、新型打上花火だ。遅れて辺りに爆音が轟く。ついに、冒険者たちの祭りが始まったのだ。

Myhal(Gilgamesh)特派員によると、冒険者たちのあるものは予期せぬ轟音にたたずみ、あるものは花火見物に適した高台に陣取り、そのときを迎えた。そしてひとしきり花火を堪能すると、祭りを楽しむべく思い思いの場所に散っていったそうだ。

多くの冒険者が最初に楽しんだのは「肝試し」だったようだ。ただし、この「肝試し」、モーグリたちによるちょっと風変わりな参加条件が設けられていたため、勇気溢れる冒険者たちの頭をも悩ませることになった。

その条件とは、「異性または異種族とペアを組んで参加すること」である。

パートナーを誰にするか、また意中のパートナーをいかに誘うか……。遊びとはいえ、究極の決断を迫られるわけだ。

Palulu(Siren)特派員によると、秘められた人間関係が浮き彫りになってしまう点が、楽しみであり厄介でもあったそうだ。

また、この「肝試し」、無事に帰還すると「浴衣」がプレゼントされるとあって、浴衣姿で祭りを満喫しようとする冒険者がモーグリの元に詰め掛けた。

Mizakura(Quetzalcoatl)特派員からは、この衣装を使ったコーディネートが冒険者の間で流行の兆しを見せている、との報告が入った。

特に、「浴衣」と「サブリガ」をあわせるという組み合わせは見た目が涼やかで、一部の冒険者の間で祭りの定番ファッションとなっていたそうだ。

タルタルのPorpora(Valefor)さんは、団扇を振りながら、そのファッションの感想を述べてくれた。

「モンスターと戦うには心許ないけど、涼しげで気に入ってるよ。明日もこの格好で金魚すくいに行くつもりさ!」

冒険者の多くが浴衣を着ることができ、祭りの盛り上がりも最高潮に達したころ、各地に「金魚すくい」屋が現れ始めた。

金魚すくい屋は、「ポイ」という非常に脆い捕獲器を売りつけて、客に「金魚」という小型観賞魚をすくわせる。すくった金魚は、数と種類に応じて景品と交換される、という仕組みだ。

近くの水辺では、童心に返った冒険者が並んで金魚を狙い、その結果に一喜一憂していた。

Across(Phoenix)特派員によると、ある冒険者は、その景品の1つである「狐面」を、恐ろしい怪物の前でおもむろにかぶってみせ、パーティの緊張をほぐしていたそうだ。

また、そんな騒ぎの中、意気消沈して耳を垂れているミスラがひとり。本紙記者が思わず声をかけると、彼女Dicca(Titan)さんは、こう語った。


「あたし、あんまり金魚が美味しそうだったんで、すくったそばから食べちゃってたんですよ。まさか、金魚すくい屋のおにーさんに渡したらアイテムと交換してもらえるなんて……。あんなにたくさん食べなきゃよかった……」

しかし、ひとしきりぼやいた後、彼女は「また、やりなおします」と元気に金魚すくい屋のもとへ駆けていった。

まだ、彼女の情熱の火は消えていなかったのだ。

さて、そんなモーグリや金魚すくい屋以上に祭を盛り上げたのが、自分たちのスタイルで祭りを楽しもうと、独自に開かれた冒険者たちの催し物だった。

そのような催し物のひとつ“クラウツ橋商店街祭り”と銘打たれたイベントに注目した記者は、企画した冒険者団体“Higedandy(Titan)”に直撃取材を試みた。

「今回の催しのきっかけとなったのは、ヴァナ芸人さんたちの祭典を再び開催して欲しいという皆さんからの要望でした」

取材を快諾してくれた代表のGillbertさんは、今回の催しの主旨をそう語った。

そこで、今まで様々な催し物を開催した実績をもつ“Higedandy”だが、その中でも特に好評を博している“ヴァナ芸人コンテスト”を軸に、今回のイベントを立案していったそうだ。

「ですが、せっかくのステージも、人が集まりすぎて混雑し、芸人さんの芸が見られないのでは意味がありません。今回は街の各地に芸人さんが散らばり、それぞれで路上ライブを行っていただく方法をとり、お客さまが他の催し物を楽しみながら、お気に入りの路上ライブを楽しんでいただけるよう心がけました」

おかげで記者もかねてより注目していたヴァナ芸人、「吉本るみね」さんのステージを商業区の炎水の広場で、ゆっくりと楽しむことができた。噴水を背にしたステージは見やすく、詰め掛けた観客も快適に芸人の話術を楽しんでいる様子だった。

また、彼らは柔軟な発想で、「浴衣」が新たなファッションの流行を作り出したことを見て取ると、さっそくそれに因んだ催し物「納涼☆浴衣ダンディコンテスト」を開催した。

このコンテスト、「浴衣」と銘打っていたものの、「浴衣」の着用は義務づけられていなかったことが成功の一因となったようだ。様々な自慢の衣装に身を包んだ参加者が詰め掛けたのである。

記者もこのコンテストを会場で見ることが出来たが、センス抜群の着こなしから、一度見たら忘れられないインパクトのあるコーディネートまで、大変見ごたえのあるコンテストであった。

結果、“浴衣ダンディ”の栄冠に輝き、賞金の10万ギルを手にしたのはエルヴァーンの男性。自慢の赤魔道士の華麗な衣装に「錆びたサブリガ」を合わせた個性的な組み合わせは、観客の視線を釘付けにした。

余談だが、彼は仲間内で「ふともも貴公子」と呼ばれることになったという。

商業区各地では他にも様々なゲームやバザーが行われ、散策する冒険者たちを楽しませていた。

特に、赤字覚悟で営業された主催者のバザーは大盛況。予想以上の赤字に頭をかかえつつも、飛ぶように売れていく商品を前に “Higedandy”のメンバーたちは満足げであった。

また、「エモ当て屋」と呼ばれる露店も人気を博していた。あらかじめ用意された5つの感情表現のなかから1つを選び、掛け声とともに店主と同じ感情表現を行えば挑戦者の勝ちとなるゲームを行う露店だ。

このゲーム、3連勝すれば賞金が得られるということもあり、多くのリピーターが詰め掛けた。店主も「見事賞金を手に入れた人が多く、赤字になっちゃいました」と嬉しそうに語っていた。商売は抜きに、まさに主催者と参加者が楽しむことを第一に運営されていたのであった。

さて、最後に、この“クラウツ橋商店街祭り”のフィナーレの様子について触れ、筆を置きたいと思う。

商業区競売所前にこの祭りのスタッフが現れると、冒険者たちは大きな歓声と拍手をもって彼らを迎えた。

“納涼☆浴衣ダンディコンテスト”や各種ゲームの結果発表の後、Gillbertさんは「いつの日かまた一緒に楽しめることを祈っています」と述べ “Higedandy”の定番の挨拶となっている「良い髭を!」で祭りをしめくくった。

閉会式のあと、もういちどGillbertさんにお会いし、今回の催し物の成功要因を伺ってみた。

「やはり団員の結束力と、芸人さんたちのパワー、そして今までの失敗を基に積み上げてきたノウハウでしょうか」

さらに、多くの人からの意見や要望、激励の声も大きな原動力となっている……そう語るGillbertさんに記者は、仲間との絆を胸に困難に立ち向かう冒険者の心意気を見た気がした。

花火の下、大きな計画を成功に導き、新たな友情を育み、絆の大切さを再確認した冒険者たち。筆者は、彼らの絆が生み出す連携が、思わぬパワーを生み出すことを、あらためて思い出していた。