「ヴァナ・ディール トリビューンII」の読者の皆さん、はじめまして。私は、生物学者クラボエール男爵の助手アテルーネ(Atelloune)。人呼んで“動物のお姉さん”よ。

突然だけど、このコーナーでは、知識欲旺盛な皆さんのために、ヴァナ・ディールの動物についてお話ししていきます。ビシバシ飛ばしていくから、しっかりついてきなさい?

では、匿名希望の忍者のオトモダチから質問が届いているから紹介するわね。

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動物のお姉さん、聞いてください。先日、ウルガラン山脈まで足を伸ばしたんですが、そこで普通のヤツの何倍も強そうな白いウサギを目撃したんです。パーティの女の子は「真っ白でカワイイ〜」なんて言ってましたけど、とんでもないです。ヤツら、赤い眼をギラつかせながら、ずっとボクを見てニヤついてたんですから……。あのウサギは、何者なんでしょうか?
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ということで、今回のテーマは“ウサギ族”にします。そう、あのウサちゃんよ。

それでは、うちのセンセの新刊『奇想天外!クラボエール男爵の動物百科』のP.315から重要なところだけ引用していきます。

『ウサギ族(Rabbit)は、優れた脚力と発達した尻尾で跳躍移動する草食動物である。巨大な耳と愛くるしい大きな眼が特徴だ』

あの眼をアップで見て“愛くるしい”と言えるかどうかは個人の感覚によるわね。各自、直接確かめてくるように。

それから、左の骨格図を見て何か気がついた人、挙手。そうよ。後肢や尾が発達しているのに、前肢はわずかに痕跡みたいなものしかないの。つまり、餌を食べる時は、顔から突っ込んでいくってことかしら。ワイルドね。

『様々な厳しい環境に棲息しているウサギ族は、唯一安眠できる場所である巣穴をとても大切にしている。それを護るためには、たとえ自分より大型の生物に対しても、強力な後ろ蹴りを武器に敢然と立ち向かうことも珍しくない』

まあ、よく言えば無謀、悪く言えば凶暴。そのへんで、しょっちゅう冒険者が蹴られているのも納得ね。

ここまで、いい? 期末試験に出すわよ? では、ウサちゃんの種類と棲息地の話に移ります。

ロンフォール、ザルクヘイム、グスタベルグ、デルフラント、さらにはウォルボーと、クォン大陸中部全域に棲息しているウサちゃんは? 右の分布図を見れば、オポオポでも0.5秒でわかるはずよ。答えはクォン野兎(Hare)。雪のような斑点がある茶褐色の毛皮が特徴ね。

『かつてサンドリア貴族たちの間で、おとなしく品種改良されたクォン野兎のペットが流行った時期があった。後に、そのウサギたちは、ブームの終焉と共に森に捨てられて繁殖し、ロンフォールの野兎の数はさらに増えることとなった。ちなみに「ロンフォール」とは、エルヴァーンの古語で“ウサギの巣穴”を意味する』

その昔、私の家でもウサちゃんを飼っていたのよ……。つがいで飼ったものだから、ずいぶん数が増えてね、それに困り果てた両親が、私の寝ている間にみんな森へ放してしまったの。もちろん大泣きしたわ。“お母様、なぜグリルにしてくださらなかったの?”って。

……失礼、話が逸れたわ。次いきましょう。

サルタバルタ、コルシュシュからリ・テロアまでと、ミンダルシア大陸に棲息するウサちゃんは? そう、答えは、ララブ(Rarab)。毛皮は黒色で、背に白色の細い筋が見られるのが特徴よ。

『「ララブ」とは、タルタルの古語で“もたらすもの”の意。タルタルには、ララブが手紙を届けたり、恩返ししたり等といった民話が多数残されており、彼らの生活とウサギがいかに密着していたかが窺える』

実際、ウィンダスの民家では昔からララブが飼育されていたそうよ。ペットとしてかって? まさか。グルメの国ウィンダスは、そんな甘っちょろくないのよ、坊や。

さあ、涙を拭きなさい。次へ進むわよ。バルドニアの高山地帯など、クォン大陸以北に棲息するウサちゃんは? ……我慢できないから言うわね。答えは、雪のように真っ白な毛皮と、受験生のように真っ赤なおメメが特徴の、極地兎(Polar Hare)。忍者のオトモダチが見たのは、まさにこれよ。

『極地兎は、ヒュームの伝説で月から訪れたとされている』

あぁら、ファンタスティック。でも、実際は3種の中でいちばん身体が大きくて荒っぽいタイプだから、迂闊に手を出しては駄目よ。

ここまで、理解できたわよね? それでは最後に、P.337の仮説を読み上げます。この一文のおかげで、うちのセンセが学会から未だに干されてるってことは、みんな内緒よ。

『色こそ異なるが、おそらく3種のウサギの先祖は、同じ場所に棲息していた同一種であろう。それは、彼らの骨格に実はほとんど差異がないことからも推察できる。弱い彼らは、棲息域を広げていくに従って、その土地土地の天敵から身を隠す必要に迫られた。毛色はそのためのカモフラージュとして獲得したに違いない』

どうやって毛の色を変化させたのかって? 確かに説明がつかないよね。けれど、雪原地帯だけに真っ白なウサちゃんがいるのは単なる偶然かしら?

『そう遠くない未来、砂漠に棲む野兎は黄褐色に、洞窟に棲む野兎は黒色に変化していくに違いない。そればかりか、彼らウサギ族は各々が棲む土地で生き残っていくために、やがてはその骨格すら変化させていくことだろう』

うちのセンセったら、意外と大胆なことを書いているのね。この推論が正しいか否かを確かめられるのは、今から百年後か千年後か、はたまた一万年後くらいかしら。残念ながら、女神のみぞ知る、というところね。

……というわけで、今回の答えは、これよ!

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クォン野兎、ララブ、極地兎は、もとをたどれば同一種であり、同じ土地に棲息していた(のかもしれない)。
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どう? 満足したかしら?
Illustration by Mitsuhiro Arita