それは、あなたのお母さんのお母さんのお母さんが
子どもだったころのことかもしれません。
いいえ、もしかすると、おばあさんのおばあさんのおばあさんが
子どもだったころのことかもしれません。

ともかく、とてもとても昔のおはなし。

そのころの流れ星は、落ちたあと
お空にかえることができました。
でも、ひとりでかえることはできません。
スマイルブリンガーという人たちが、お手伝いしていたのでした。

スマイルブリンガーは、みんな同じすがたをしていました。
赤いぼうし。大きなふくろ。まるいおめめ。ながいおみみ。
スマイルブリンガーは、いつも旅をしていました。
あつい国。さむい国。大きな町。小さな村。

スマイルブリンガーがやってくるのは、決まって夜でした。
お日さまがまぶしくて、あまり好きではなかったからです。
でも、夜になると、町や村の門はしまっています。
そこでスマイルブリンガーは、門の前に来ると
自分たちが来たことを住人にしらせるために
流れ星をいくつかお空にかえすのでした。

ヒュゥゥゥゥルルルルルゥウゥゥゥゥ…

流れ星はお空にかえるときに
光のコナをちらしながら、歌を歌います。
そして、お空にかえることができると
パァァァァァァァッ!!
と大きな声をあげて、おれいに光のコナを広げて見せてくれます。
それは、まるで夜空のお星さまが
急にふえてしまったような美しさでした。

その流れ星を見ると、もうみんな寝ているどころではありません。

門を開けて、中にまねき入れると、スマイルブリンガーが袋から出すめずらしい品を値さだめしたり、よその国のおもしろい話をきいたりして、夜どおし過ごすのでした。

スマイルブリンガーを楽しみにしていたのは、大人だけではありません。
子どもたちは、もっと楽しみにしていたのでした。

なぜならスマイルブリンガーは子どもが大好きで
いつもおもちゃやおかしの入った箱を
袋からとり出してプレゼントしてくれるからでした。

そうです。スマイルブリンガーとは
子どもたちに笑顔をはこぶ人のことなのです。

しかし、あるときから子どもたちの笑顔がなくなってしまいました。
どうしたわけか、スマイルブリンガーは
来なくなってしまったのでした。

大人たちは心配して、あたりを探してみました。
でも、となり村にも、そのとなり村にも
大きな道をなん日も行ったところにある大きな町にも
スマイルブリンガーは来ていませんでした。

やがて、いつしか大人たちは
スマイルブリンガーのことを忘れていきました。
でも、子どもたちは決して忘れませんでした。
子どもたちは、夜になると、いつも空を見上げ
かえっていく流れ星はないか
と目をこらすようになりました。

子どもたちは、夜どおし起きていることが多くなり
ますます笑顔は消えていきました。

子どもたちに笑顔を取りもどすには
どうしたらよいでしょう。
こまった大人たちは、ある日すてきなことを思いつきました。
たくさんの光のクリスタルをあつめ
大きな木にちりばめたのです。

やがて、夜になると、木はキラキラとかがやきだしました。
それは、ながれ星が光のコナをちらしてかえっていくさまに
そっくりでした。

子どもたちが、大喜びして木のところにかけていくと
そこには赤いぼうしをかぶったスマイルブリンガーが
プレゼントをもって立っていました。

そう、スマイルブリンガーは
流れ星とともにかえってきたのです。

子どもたちに、あかるい笑顔がもどってきました。

Fraji-Orahji著「流れ星のかえる夜に」より 
====================================================================== これは、ウィンダス目の院発行の「触れる魔法絵本シリーズ」の一冊に収められている話である。多少の違いはあるものの、スマイルブリンガーにまつわる似たような伝承は、様々な地域や種族にまたがって伝えられている。

そのため、彼らは実在した集団あるいは民族ではないか、と考えている学者もいる。ただし、大昔に、そのような他地域にわたり、足跡を残した人々となると、伝わっている話だけでは、その正体は皆目見当もつかない。

いずれにせよスマイルブリンガーの伝承は、「星芒祭」という祝祭に形を変え、今も多くの地域で親しまれている。

街路樹にイルミネーションが瞬く夜、赤い帽子をかぶったスマイルブリンガーが、人々に、そして子どもたちに、笑顔をプレゼントするのである。

Illustration by Mitsuhiro Arita