料理界を震撼させた料理・食材の巨大相場変動、いわゆる「串焼暴落事件」から、いくばくかの月日が流れた。「串焼暴落事件」とは、食に対する熟練冒険者の嗜好が“スシ”や“カレー”などに移り、これまで圧倒的なシェアを誇っていた“串焼”の需要がまたたく間に縮小した騒動のことだ。
その混乱も落ち着きつつある現在、冒険者たちは“タブナジア風サラダ”、“クァールのソテー”、“ボスディン菜のソテー”など、さらにさまざまな料理を求めるようになっている。 ![]() それでは、彼らは何を基準に料理を作り、また口にするようになったのだろうか。 「ギルドの厨房にくる冒険者さんたちって“なにを作れば合成の腕があがりますか〜?”とか、“合成イメージをサポートしてください〜”っていう人が多いんだけど、最近は“なにを作れば買ってもらえるかわからない〜”って悩みも抱えているみたいだね〜」 そう、語るのは調理ギルドのランピモンピ(Ranpi-Monpi)さん。彼は、ギルドで新たなレシピの創作に励む一流コックであると同時に、“音楽の森レストラン(*1)”のオーナーでもある。 「冒険者に好まれる食事かぁ……。そうだねぇ。彼らに好まれる食事は、その人が何のジョブなのかによって、だいたい想像がつくんだ〜。だから買ってもらいたいお客さんを想定して、その日のメニューを決めるといいんじゃないかな〜」 料理の滋養は、それがどんな料理なのかによってある程度は知ることができるという。 「体を張って戦う人は肉とか魚とか、魔法を使う人は甘いものって覚えるとわかりやすいかも〜〜」 ※1正式な店名は“空色の階段”“明けの明星”など、時間帯によって変化する。 [代表的な料理の種類] ==================================================== 肉を使った料理
魚(活魚)を使った料理
魚を使った料理
水産物(甲殻類や貝類など)を使った料理
穀物を使った料理
野菜を使った料理
キノコを使った料理
パイ類
スナック
スィーツ(パイ・スナック以外)
ドリンク
===================================================================== 「冒険者の旅支度だったら、料理のボリュームを考えつつ、携帯する数を決めるといいだろうね〜。滋養の効果は、だいたい調理の難しさや食材の値段に比例するんだけど、それだけじゃないんだ〜。自分に合うものを食べるってことも、結構だいじなの〜。 たとえば、ボクのお店にお買い得価格の“野兎のグリル”と、ちょっとお財布が薄くなる値段の“コカトリスの煮込み”が売ってるとするよ。 もし、キミが野兎を相手にしているような新米戦士で、これから恋人にいいところを見せようとしていたら、すこし無理して“コカトリスの煮込み”を買っちゃうかもしれない。それ自体は悪くないんだけど……。本当はね、お買い得の“野兎のグリル”を食べたほうが、力が湧いてくるんだよ〜。 ![]() 逆に、キミがコカトリスとも互角以上に渡りあえる一流の戦士だったら、やっぱり“コカトリスの煮込み”ぐらいボリュームがないと、物足りなく感じると思うんだ」 つまりそれは、使われた食材の滋養が料理に込められているということだろうか? 「うん。食材によって滋養はある程度決まるんだ。一番わかりやすい例が“キノコ料理”! キノコにはフシギな成分が含まれていて、食べた人だけが発散するかすかな香りが、嗅いだものの気持ちを優しくするんだ〜。だけど、ぜんぶのキノコ料理がそうだっていうわけじゃないから注意してね」 同じキノコを使った料理でも“ゴブリン風キノコ鍋”では、キノコ特有の成分が食材の取り合わせによって失われているのだという。 「栄養価を追究した結果かなぁ。いろんな食材が使われたゴブリン料理って、バランスが考えられていないから、素材本来の味を殺しちゃってることもあるんだ〜。 あ、キノコ料理で思いだした! おととい、“ヒラメのムニエル”にも似たような滋養があることを発見したんだ〜。フシギだよね〜〜」 調理ギルドの一流コックでもまだまだ分からないことが多い、料理の滋養。他にも、そのような謎はあるのだろうか。 「そんなのいっぱいだよ〜。ん〜〜と、たとえばボクらが普段口にしてるチョコとかせんべいとか。あれってち〜っともおなかがふくれないんだけど、どうも、それぞれに特殊な滋養があるみたいなの〜。お金がたまったら鼻の院にお願いして調査したいと思ってるんだけどね」 取材の最中、ずっと笑顔を絶やさず料理についていろいろ教えてくれたランピモンピさん。彼がもし冒険者だったら、何を基準に食事を選択するのだろうか。 「そうだね〜。やっぱり一緒に冒険する仲間のことを考えると、それなりに滋養のある食事を摂りたいところだけど、ムリしてまでそれを食べたりしないかな〜。その日の天気や気分によって食べたいものって、クルクル変わるからっ! きっと、食べたいものをずっと頬張ってるんじゃないかな。 だって、おいしく食べることができれば、なにごともうまくいくもんだからね〜!」 Illustration by Mitsuhiro Arita
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