式後の祈りを捧げるCloudwalkerさん
冒険者たちの結婚が各国より承認されて、既に幾年月が流れた。

今ではほぼ毎日、必ず各国のどこかで冒険者同士の挙式が執り行われており、既にすっかり一般に受け入れられている、といっても過言ではないだろう。

ここバストゥークにおいても、ひっきりなしに舞い込む挙式の依頼に、戸籍官は多忙な毎日を送っているという。

今回は、そんな戸籍官のひとり、Cloudwalkerさんに焦点を当ててみた。

普段は冒険者登記官として工務省に勤めているCloudwalkerさんは、挙式の予約があるときだけ、その務めを離れ、臨時の戸籍官に任命され、式に立ち合っている。

「毎日際限なく増え続ける仕事から抜けられる、というのもあるのだが、何より夫婦としての契りを交わす場にご一緒できるのが嬉しいですな」

この日も冒険者同士の挙式に立ち合い、晴れて結ばれたふたりの新たな門出を見送った後、Cloudwalkerさんは感無量といった様子で語ってくれた。柔らかな物腰の、人当たりの良さを感じさせる人だ。だからこそ、この役割を任じられたのだろう。

素朴な疑問が浮んだ。転生によって生まれ変わり、夫婦や家族といった概念の希薄なガルカの彼は、結婚に何かしらの感慨を覚えるのだろうか。

「ガルカと他種族の女性が挙式にのぞむ場合でも、他の種族がそうであるように、信頼の絆で結ばれ、自信に満ちている点で変わりない。幸せそうな同族の姿を見ていると、結婚がいかに素晴らしいものかということが、替え難い喜びとなって私にも伝わってくるのだ」

さすが独自の精神文化を誇る種族らしく、目に見えないものでもじゅうぶん感じることができるようだ。

次に質問を変えて、これまで立ち合ってきた挙式で、印象に残っていることを聞いてみた。

「挙式の様子を見て気分が盛り上がってしまうものなのだろうが、参列者から一度ならずプロポーズされたことがある。結婚がすばらしいものだというのはわかっているつもりだが、一目会ったその日にプロポーズというのは、どうも……」

たくましい体格と温かなまなざしに、強い魅力を感じる女性が多いのは想像に難くない。

「本当に幸せそうで、嬉しそうなのはよいのだが、なかには挙式の最初から最後まで、新郎新婦のお互いが持っているリンクシェルを通して会話していて、何を話しているのかこちらには聞こえない場合もあった。照れ隠しという面もあるのだろうが、戸籍官としては寂しい式だったな」

「挙式の予約を忘れてしまい、約束の時間になっても待ち合わせ場所に現れない、ということもあった。予約が多くて何ヶ月も待たせてしまうことがある我々も悪いのだが、自慢の一張羅に身を包んでひとり待ち続けていたときは、どうしたものかとずっと腕を組んでいたものだ」

やはり冒険者、たぎる血に任せ冒険の旅に勤しむあまり、儀式的な事柄には関心が薄れる場合もあるのだろうか。

「そんなことはない。何か月も前からリハーサルを繰り返して、気合いたっぷり準備万端で臨むカップルもいたくらいだからな。だが、そういう者たちに限って、なぜか本番で力みすぎてしまって、段取りをまちがえたり、『誓いの言葉』を忘れたりするハプニングも起こりがちなのだ」

過ぎたるは及ばざるがごとし、ということだろうか。しかし、Cloudwalkerさんは、温かくつけ加えた。

「だが、そんなハプニングも、いつか良い思い出になるものなのだそうだ」

さらに、Cloudwalkerさんは、こんな話も聞かせてくれた。

「式の途中、結婚指輪をお互いが指にはめる場面があるのだが、緊張しているのか手袋や小手をしたまま指輪をはめようと四苦八苦している方もたまに……。どちらかというと、新郎のほうが多い気がするな」

普段冒険に出かける服装のまま式に臨んだ勇ましい新郎の姿と、ここ一番での女性の強さを式で発揮する頼もしい新婦の姿が目に浮ぶ、微笑ましいエピソードだ。

「結婚したからといって、おふたりの関係に直接的な変化が生まれるわけではない。しかし、精神的な結びつきをより強くするきっかけにはなると思うのだ。これからも、そんな2人のために少しでも力になれれば、と思っている。

そして、今後も新婚夫婦の絆を深めるため、その思い出作りに精いっぱい力を注いでいくつもりだ」

最後に、そんな心強く頼もしい言葉を頂いて、わたしはインタビューを終えた。

祝福のにぎわいが夕暮れの薄暗闇にかき消され、普段の静けさを取り戻した式場で、参列者がお祝いの意を込めて放った花火やクラッカーの後始末に没頭するCloudwalkerさんの背中が印象的だった。