戦うすべを持たない者たちが決して出遭ってはならない存在、それがノートリアスモンスターだ。凶暴で計り知れない強さを誇る彼らは、この世界の恐怖の象徴とも言われている。
だが逆に、危険を冒してノートリアスモンスターに戦いを挑む者――冒険者もいる。失われた財宝や、珍重される素材など、ノートリアスモンスターを倒して得られる品はとても高価なものが多いため、富と名声を求める冒険者にとって、彼らは格好の標的なのだ。 もちろん、戦いを挑んだからといって勝利できるとは限らず、返り討ちにされる危険性も高い。そのため必勝を期する冒険者たちは、討伐パーティを編成する前に、その生息地や有効な戦術、得られる財宝など、あらゆる情報を求めるのである。 ![]() そんな冒険者たちの情報網に“いるのにいない”ノートリアスモンスターの噂が流れるようになったのは、つい最近のことだ。 “いるのにいない”とは、“それ”に接近した者ごとに見えたり、見えなかったりするという、とても不思議な状態を指しているそうだ。 たとえば、AくんとBさんが“それ”の近くにいる場合、Aくんにとって “それ”は触れることもできる存在なのに、Bさんにとっては見ることさえできない存在となるのだ。 この奇妙なノートリアスモンスターについて調査したところ、冒険者から次のような情報を得ることができた。 ![]() 侍(タルタル)さんの証言 「拙者は、たとえ敗れても何も失わずに済むノートリアスモンスターがいると友に誘われ、その真偽を確かめるために挑戦したでござるタル。もちろん6人パーティで挑み、勝つつもりであった。 しかし、いざそこに到達してみると、誘ってくれた友だけ“それ”が見えぬと言うではござらぬか!? やむを得ず我々は5人で戦い、玉砕したのでござるタル。 ……友の言葉が真実だったと証明できたのが、唯一の戦果であった」 竜騎士(ミスラ)さんの証言 「ある人からだいじなものをもらっちゃってさ。みんなで、その人の言う“そこ”に向かうことになったの。そしたら、そこのバトルフィールドにノートリアスモンスターが出てきて……。あはは、まけちゃった。 今日、リベンジしようと準備してたんだけど、変な黒服の人が“不可視時間”だからあたしには見えないだろうって言うんだよねぇ……。 え? その人? チョコボ厩舎の前にいたよ」 はたして、“いるのにいない”ノートリアスモンスターは実在するのだろうか。本誌は、幸運にもさる機関の関係者との接触に成功し、一言だけコメントを得ることができた。 「噂のノートリアスモンスターは、私たちの間でENM(Empty Notorious Monster)と呼ばれてるものと同一の存在だろう。ENMは存在そのものが希薄になってるから、一度でも見た人は、しばらくその生物が不可視となるらしい」 なんとも頭が混乱してくる話だが、ENM(=“いるのにいない”ノートリアスモンスター)はそこに“いる”としても、それを見たことのある者だけはしばらくの間“いない”ことになってしまうという。もしかすると、全滅後に何も失わないことも、存在が希薄なことと関係があるのかもしれない。 いるのにいない奇妙な“ENM”。もしあなたが冒険者ならば、一度挑戦してみてはどうだろうか。 |