東方の甲冑を身にまとった何者かが、街の外で暴れているらしい。しかも、クォン大陸とミンダルシア大陸の多くの地方で目撃されているという。

そんな情報を聞きつけ、記者がチョコボで調査に出かけると、簡単に走る甲冑を目撃することができた。何体もの甲冑が、各地で走りまわっているというのは本当だったのだ。付近にいたモーグリに訊ねたところ、とてもあわてた様子ではあったが、話をきくことができた。

東方では「練武祭」という、男児の健やかな成長を願って巨大魚の旗幟を空に掲げたり、男の子に甲冑を着せて戦わせたりする、勇ましいお祭りがあるという。モーグリたちは、先日行われた「ひなまつり」に続き、今度は男性冒険者にも楽しんでもらおうと、東方出身のあるおサムライさんにアドバイスをお願いし「練武祭」の準備を進めていた。

彼は異文化交流の機会になればと本国に連絡を取り、飾り用にと伝説の甲冑まで取り寄せてくれ、「練武祭」は盛大なお祭りになる予定だった。

しかし、ここでトラブルが発生した。なんと、甲冑を保管していたモグハウス管理組合の金庫に何者かが侵入し、甲冑を盗み出しただけではなく、それを着たまま街の外で暴れだしてしまったのだ。

あわてたモーグリたちがそのおサムライさんに相談したところ、甲冑はゲンジという東方の国でも高名な武門の一族の家宝「ゲンジ八甲」の内から借り受けた、「タテナシ」、「ツキカズ」、「ウブギヌ」、「ハチリュウ」の四領であるという。

「練武祭」期間終了までに甲冑を取り戻し、ゲンジ一族に返却できなければ、侍は責任をとってハラキリをしなければならない。しかも天下の逸品であるため、刃物などで傷がつくようなことがあれば外交問題にまで発展してしまう恐れもある。いくら暴れているとはいえ、武力で取り押さえるわけにはいかないというのだ。

そこで、清められた木刀にて、犯人の邪気を吸収して鎮めようという作戦が急遽立案された。モグハウス管理組合は、木匠クペルシャンに大量の木刀の制作を依頼し、その木刀を各地に派遣されたモーグリたちが冒険者に配っていたわけである。

さっそく記者も、モーグリに木刀をもらい、「ゲンジ甲冑の中の人」討伐を手伝うことにした。

モーグリに術をかけてもらい、甲冑を探す。モーグリの術によって新米冒険者のような体力になってしまったが、これは無駄な力で甲冑を傷つけないための作戦のようだった。ほどなく、甲冑を見つけることができたが、足が速く、追いつくどころか、すぐに見失ってしまった。

何度か同じことを繰り返しているうちに、同じ目的を持った冒険者たちに声をかけられ、ともに行動することにした。
みんなで探せば、見失ってもすぐに見つけることができる。
甲冑は普段は走り回っていたが、たまに立ち止まってこちらを攻撃してくることがあり、そのときを狙って集中攻撃することで、かなりの邪気を吸収することができた。

やがて、記者にかけられた術が解けてしまったため、私は甲冑討伐を中断し、街に戻ることにした。街で木刀を配っていたモーグリに報告すると、彼はお礼にとお菓子をくれた。

ライスを蒸して練った皮で甘い餡を包んで固め、木の葉で包んだ東方のお菓子「柏餅」だった。「ひなまつり」の菱餅のように、東方の祭りには甘いお菓子がつきものらしく、練武祭には柏餅は欠かせないのだそうだ。

しかし、モーグリたちが配っていたのは、またしても鼻の院で開発されたという魔法の柏餅だった。それを食べた冒険者たちは、次々と男児の姿に変身してしまったのだ。

思わず職務を忘れてはしゃぎまわってしまった記者だが、以前取材した、調理ギルドのハキームさんがまた味見をしたのかと、少し気にかかった。

さて、結局この甲冑の中の人たちをつかまえることができたのだろうか?
モーグリたちに問うたところ、答えは“イエス”。
後で聞いた話だが、ゲンジ八甲には特殊な霊力が秘められており、邪な者が着用したことを察知した甲冑は、中の人の意志に反して不可思議な力で体を操り、へとへとに疲れさせていたらしいのだ。おまけに、冒険者に木刀で叩かれたものだから、たまったものではない。

「練武祭」の期間が終わったのと時を同じくして、中の人はぱたりと倒れて動かなくなったので甲冑を脱がしてみたところ、彼らはぼろぼろの姿で泣きじゃくって謝ったらしい。ともかく、ゲンジ八甲は期日通りに無事東の国に返され、おサムライさんも首が繋がったと安堵していたそうだ。

なんとも人騒がせな今回の騒動だったわけだが、ふと幼い頃の記憶が頭をよぎった。
おもちゃの武器を持って、友達と追いかけっこをした日々。
疲れて家に帰ると、甘いおやつを食べながらおしゃべりしたものだ。

モーグリたちからしてみれば、今回の「練武祭」計画は失敗に終わったことになるが、参加した冒険者たちは、少しのあいだ、童心に帰って楽しむことができたのではないだろうか。

text by Takashi and Asami Watanabe