数ある合成スキルのなかでも、極めるためにはひときわお金がかかるといわれるのが彫金である。彫金は原石から宝石を削り出し、それを指輪やイヤリングなど、さまざまな宝飾品に加工したりできるスキルで、金やプラチナなど希少価値の高い貴金属も取り扱う。

使う素材が高価なだけに、敷居が高いイメージを持たれやすい彫金だが、師範階級の職人はいったいどんな日常を過ごしているのだろうか?

今回は、彫金職人のKさんにお話をうかがった。

――こんにちは、今日はよろしくお願いします。

Kさんは彫金職人だそうですが、現在のスキルはどのぐらいですか?

「彫金が100で、ほかの合成スキルは全部60。スキル上げは卒業してます!」

――すごいですね! なぜ彫金の道を選ばれたのですか?

「最初はいろんな合成をまんべんなくやってたんです。どれを専門にしようか悩んだときに、どうせならいちばん大変そうな彫金にしようかなと。
そこまででもかなりお金はかかってたから不安はあったんだけど、やってやるぞ! って気になっちゃって。
同業者も少なかったし、あと……女の子に指輪とか贈れたらカッコイイかなっていう下心もありました!
まだ、贈ったことないですが(笑)」

――なるほど(笑)。冒険者としての腕前はどのぐらいでしょうか?

「赤魔道士75です。赤魔道士が装備できる細身の片手剣って彫金で作れるものが多いんだけど、初めて作ったときはまず自分で装備して、美しい! って自己満足に浸ります(笑)」

――冒険者としてのレベルが高くないと、彫金の道を進むのは大変だと思いますか?

「資金さえあれば、レベルが低くても街の中だけでなんとかなると思いますよ。実際、僕はほとんどの素材を購入で済ませちゃってますし。
資金はないけど彫金を始めてみたい人は、シーフのレベルを上げて獣人貨幣を取ってくるところから始めるといいんじゃないかな」

――シーフだと便利なんですか?

「銀貨ぐらいだと買うほうが早いと思うけど、ミスリル貨とか金貨とか高いものになってくると、バンバン盗んでいるシーフはうらやましいですね。僕はサポートジョブレベルまでしかシーフは上げてないので、あんまり盗めないです(笑)。
あと、ゴーレムが落とすミスリル鉱とか、オークが落とす黄金マスクとか、トレジャーハンターでいっぱい取れるからいいと思いますよ。オークの黄金マスクは分解に成功するとゴールドインゴットができるんだけど、Exアイテムなんで売買できないし」

――素材を買うのはどこで?

「競売所が多いですね。ギルドやバザーもまめにチェックして、安ければ買います。あとは、装備品をお店で買って分解してインゴットにしたり。
自分で取りに行けばタダなのにって言う人いるけど、取りに行く時間を考えると、買っちゃったほうが時給換算で安いことも多いんですよ。
最近は素材の値段も高いものが多いから、なにも考えずに買っちゃうと赤字になっちゃいますが(笑)」

――何を売って稼いでいるんですか?

「そのときによっていろいろですね〜。ずっと変わらず売り続けているのは指輪のHQ品。低レベルのHQはできやすいけど、在庫過剰になりがちですね。高レベルのHQはなかなかできないけど高く売れるから、たまに挑戦します」

――今まで修行に使ったお金と儲けたお金はどちらが多いですか?

「儲けたほうが多いでしょうね。お金が増えたり減ったりの幅が激しいんで、あまり細かくは覚えてないんですが(笑)」

――こんなものを作りたい! ってアイテムはありますか?

「最近ガラス板が追加されましたよね。
ガラス細工の技術とか、彫金に追加されたらいいなーとひそかに期待してます!」

――彫金の苦労するところはどんなところですか?

「うーん、苦労ではないんですが、お金をたくさん持っていると思われる。
実際は出費も多いんで、そんなにないんですが(笑)。
サングラス(遮光眼鏡)のせいで、なんとなく怖いと思われていることもあるかも?」

――今まで合成したものでいちばん思い出に残っているものを教えてください。

「片手剣のクリシュマルド。外見がいちばん好きなんです。
あと、胴装備のシャイルマンティル。依頼されて作ったんだけど、とても入手が大変な素材なので……。
今まで何回か作ったけど、毎回ひやひやモノです。幸いまだ失敗したことはありません!」

――では、最後にメッセージをお願いします。

「彫金は元手となる資金が必要ですが、ケチらない心も必要。
2000万使って3000万儲けるぐらいの気持ちでいくといいですよ。
眠いときは競売所での金額ミスに気をつけましょう! 僕はよくやります(笑)」

――ありがとうございました。

職人としての高い腕前を持ちつつも、気さくでノリのいいKさん。
苦労を外には出さないが、ここまで来るには相当な努力があったのだろう。
汗を感じさせないそんな手にこそ、さらりと削り出された宝石が似合うのだ。

text by Takashi and Asami Watanabe 
Illustration by Mitsuhiro Arita