間もなく訪れるヴァレンティオン・デー。

サンドリアに伝わるラヴストーリーにちなんだこの記念日は、意中の相手にプレゼントを添えて想いを伝える特別な日として、ヴァナ・ディールに広まっている。

特に冒険者の場合、告白のためのプレゼントは「ハートチョコ」というのが定番となっていて、この時期ともなると調理のスキルアップに励む者や、高騰を見越して食材の調達に励む者の姿も多く見られるようになる。また、最近では「ハートチョコ」は丁寧にラッピングしてから贈るのが主流となりつつあるのだが、それと同時に、街の人々の間でも「ヴァレンティオン・デーにはチョコレート」という風潮になっているのだそうだ。

そんな具合に、誰もがチョコレートを誰に贈ろうかとソワソワしはじめている中、それを黙って見過ごすことができない者たちがいた。言わずと知れた、お祭り大好きなモーグリだ。

本誌編集部が入手した情報によると、モーグリたちはすでに準備に着手しており、サンドリア、バストゥーク、ウィンダスの3国で、冒険者に見つからないようにして、このようなビラを配布しているという。

『冒険者ではないあなたに朗報!
 愛の使者のもたらすチョコレートが2人の出逢いを導くクポ!!
 ヴァレンティオン・デーに最愛の人とめぐり逢える!!!
 ……かもしれないクポ』

なんとも魅力的なフレーズだが、冒険者以外に限定されているのはどういうことだろうか。モーグリの企画するイベントは、常に冒険者主体だったが、今回ばかりは例外だというのだろうか。

そう不審に思ってビラをよく見ると、小さな文字で次の注釈が書かれていた。

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・出逢いの秘訣は、なんといってもイメージ、クポ。理想の相手がどんな人なのか、それをイメージできる人にこそ、幸福は訪れるクポ。
・甘いものが苦手な人は、参加しないほうがいいかもしれないクポ。逆に好きな人は大歓迎クポ。
・もし、冒険者さんが何かの誤りでこのビラを見てしまったら、読まなかったことにしてほしいクポ。冒険者さんには、別にお願いしたいことがあるクポよ。
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なるほど、改めて別な役割が冒険者に任されるというカラクリのようだ。それでは、街の人々の反応はどうだろうか。

「あぁ、ヴァレンティオン・デーに便乗したモーグリの余興でしょ。自分たちに得があるわけでもないのに、よくあれだけ精を出せるもんだわ、感心しちゃう。……でも、本当に運命の人と出逢えるのなら安いものかも」

「これって、たとえば明るいミスラの女の子とめぐり逢いたい! って願ってもいいんだろ。ほら、バストゥークに住んでると、ヒューム以外の女の子と知り合う機会が少なくてさ。モーグリの手引きっていうのがちょっと気になるけど、もしうまいこと知り合えたら、ウィンダスを案内してほしいなぁ」

街の人々は、おおむね好意的に受け止めているようだ。城門の外に出る機会も少なく、平凡な毎日を続ける彼らは、刺激的な出逢いを求めているのかもしれない。

そして、インタビューを続ける中、本誌記者はさらなる情報を入手した。

「えっと、あの、わたしも、素敵な、殿方と、お知りあいになる、チャンス、いえ、機会が欲しくて……。モーグリさんの、ところに、お話を、うかがいに、いったんですけど……。そこで、見て、しまったんです……」

とある少女が語るには、ビラを配っていたモーグリを訪ねたところ、頭に布を巻いた別のモーグリが「じゃ、これは置いていくクポ」とモーグリに包みを渡して、飛び去っていったのだそうだ。

仲間を見送ったモーグリは、そのまま包みから「緑色の薬」を取り出した。それを見た少女は、なんだか見てはいけない場面のような気がして反射的に物陰に隠れたという。
そんな彼女の耳に、モーグリの歓喜の声が届いた。

「これが伝説の……! たしかにロマンスの香りがするクポ〜!
そ、そして、こっちは……!!
これこそ愛の使者の証に相応しいクポ!!!」

少女は結局、いたたまれなくなってモーグリと話すことなくその場を去ったのだが、去り際に視界の端で捉えたモーグリは、嬉々としてクルクル回っていたそうだ。

着々と準備がすすめられるモーグリたちのイベント。いったいどんな内容なのか。少女と別れた記者は、最後にモーグリのもとへと赴き、直撃インタビューを試みた。

「ノーコメントクポ。
それより記者さん独身クポ? だったら参加するといいクポ。きっと美味しい出逢いが待ってるクポよ」

まんまと話をそらされてしまった。

果たして、街の人々は最愛の人とめぐり逢えるのか? また、冒険者に任される役割とは? 全貌は、ヴァレンティオン・デーで明らかになることだろう。

Illustration by Mitsuhiro Arita