ひなまつり 〜体験型お花見への招待〜 (2015/02/12)

ひなまつり──。
ヴァナ・ディールのすべての女の子たちが健やかならんことを願うお祭りが、
今年もにぎやかに始まります。

東方由来の年に一度のお祭りは、ヴァナ・ディールのすべての乙女たちのもの。

それが冒険者であっても、乙女心に変わりのあるはずがなく──。

はらはらと舞い散りゆくピンクのさくらのはなびらも。
口のなかで甘く溶けてゆく三段重ねの菱形のケーキも。

なくてはならないもの──。

もっとも、花咲ける少女たちの心を理解しない殿方というのは、
いつの時代にも、どこの場所にもいるようで……。

前のひなまつりのことだった。
『ヴァナ・ディール甘味党』なる4人の冒険者の集まりがあった。
それぞれが好きなスイーツを持ちよっておしゃべりしつつ食べあうという、
とてもひなまつりらしい(と、彼女たちは主張する)集まりである。
会の終わりごろに通りかかった冒険仲間のモジャリ・マジャリが、
「ははあ。君たちは、花より団子だね!」
と笑った──迂闊にも。

4人の少女たちは、何も言い返さずににっこりと微笑んだ。
花のような笑みだった。
それから1年が経った。

「というわけで、ひなまつりなのよ」
「何が『というわけ』なんだよ! さっぱりわからないよ!
なんでボクは縛られてココにいるの!?」
「だからぁ。あたしたち、『ヴァナ・ディール甘味党』は食べるだけじゃなくて、
お花見だってできることを体験してもらおうって思ってさー」
「体験型のお花見って何!? なんでそんな不穏な言い回し!? ボク、悪い予感しかしないよ!」
「ごちゃごちゃうるさいなあ。ほら、クレナイ、あんたからよ」
「では、行きましょう、モジャリさん」
ヒュームの娘クレナイが清楚な笑みを浮かべながらモジャリの手を取った。
逃げられそうにない。

モジャリが連れて来られたのは、北グスタベルグの崖下だった。
東側には見上げると首が痛くなるほどの切り立った崖が聳えている。
「えっと……どうしてココに?」
崖を見上げ、モジャリは無意識に首をすくめた。彼は高い所が苦手なのだ。
「わたしが見せたいのは、このお花なんです」
クレナイが後ろ手に持っていたものを前に差しだした。
「アマリリスです」
真っ赤なユリに似ている花だった。
「へ、へえ……。きれいじゃんか」
「はい。では、この花の素晴らしさを一緒に体験しましょう、さあ!」
「なんで手を繋ぐのーっ」

アマリリスを2つ放り投げた。
次の瞬間──。
びゅうびゅうと吹きつける風のなか、クレナイに手を繋がれながら、
モジャリは、自分の身体の何十倍もの高さの崖の上から崖下を見下ろしていた。
「うわあああああああああ!」
一瞬で、崖上に転送されていたのだ。なんでどうしてこうなった!?

   ★

「はあはあはあ。し、心臓が止まるかと思った」
「さあさあ、モジャリくん。次はわたしの番だぞ」
謹厳実直で知られるエルヴァーンの騎士マディラーヌが爽やかに微笑む。
「わたしは、ドキドキする花を見せてあげよう」
「待って! お花見で、ドキドキってどういうこと!?」
「見ればわかる。ああ、来た来た。さあ、ご覧あれ」

そいつはどう見ても花には見えなかった。モジャリより大きいし。
長い茎の先に付いているには、蓋のついた壺にしか見えない。
その蓋が上下にパカパカと開き、モジャリとマディラーヌを追いかけてくる。

「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
「あはははは。食獣植物スナップウィードだよ。かわいいだろう?
おっと、消化液を飛ばしてきた!
気をつけたまえ。あれを浴びるとドロドロに溶けてしまうぞ。
上手に避けて、あの愛らしい姿を愛でるんだ」
「そんな暇あるかあああ」

   ★

「ぜいぜい。はあはあ」
モジャリは地面にぺたりと座り込み、項垂れた。
「つぎは、あたしの番にゃ!」
片手を空に突きあげて、ミスラ娘のシェ・ティラがはしゃぐ。
「もう……勘弁して……一歩も動けないよ」
「安心するにゃ! モジャは動く必要ないにゃ」
「モジャじゃないよ。ボクは、モジャリだってば……」
「ほら、近づいてきたにゃ!」

現れたのは、頭に双葉を開かせた歩く植物──マンドラゴラだ。
「彼は、植木鉢育ちのビルくんって言うのにゃ」
「花じゃないよ! 葉っぱが付いてるだけだよね!」
「いつかきっときれいな花を咲かせてみせるって、あたしと暁の誓いをしたにゃ!」
「嘘だ。それは嘘だ」
「だいじょうぶ。こっちから手を出さなければ平気にゃ。ほら、いっぱいお花見するにゃ!」
「だから、花付いてないよ!?」
「たまーにくるくる回って、どんなに嫌なことがあっても、すやすや眠らせてくれる、
とってもナイスガイなヤツなのにゃ〜」
「それ、攻撃されてない!?」
「にゃははは! この世はすべて夢なのにゃ〜〜〜〜〜!」
「ああ、なんか眠くなって……」

   ★

「ごめんなさい。ボクが悪かったです……もう、花より団子なんて言いません」
「あらあら。いいお花見ができたみたいね」
タルタル娘のチョココがニヤニヤしながら言った。
「うふふ。モジャリさん、すっかりわたしたちのお花見が好きになってくれたんですよ」
「嫌な思い出はぜーんぶ忘れたにゃ!」
「……忘れられたらいいんだけどね。うう」
「で、チョココ。わたしたちを波止場に集めて、どこへ連れて行こうと言うんだ?
君はまだ、お花見を『させて』いないようだが」
「もちろん、とっておきを用意したわ。行き先はあたしのモグガーデンよ。
男子禁制のとっておきの穴場でお花見させてあげる!」

チョココに招待されて最後に全員が訪れたのは、彼女のモグガーデンだった。
アドゥリン諸島にある彼女のプライベートエリアに辿りついて、
全員がいっせいに「わあ!」と声をあげた。
広い庭には満開の巨大なサクラの木が生えていたのだ。
大木の根本には緋色の絨毯が敷かれ、
東方風の四角い箱にはぎっしりと季節の料理が詰められていた。

「さあ、お花見しましょ。ほらほら、モジャリも」
「ボ、ボクも……いっしょに?」
「なに、ビクビクしてんのよ。だいじょうぶだってば!
今日は楽しいひなまつりなんだからね。さあさあ、座って。乾杯しましょ」
「ほう。アップルジュースにサクラの花びらを浮かせたのか」
「風流ですね」
「うまいにゃ!」
「あ、こら、乾杯が先だってば! モジャリも遠慮なく食べてね」
「あ、ああ……うん」
半信半疑のまま、モジャリは敷布の上にあがりこみ、4人の少女たちの隣に腰を下ろした。

「あ、乾杯の前に、モジャリはこれ食べて」
「……ヒシモチ。って、これ、鼻の院のヒシモチじゃないか! やだよ!」
食べると、タルタルの少女になってしまうヒシモチを前に、モジャリは首を振った。
「あらあら。だめよ。食べてもらわなくちゃお花見できないわ。
言ったでしょ? あたしのガーデンは男子禁制なの」
「あ。た、確かに、言ってたけど……ええ!?」
「いーっぱい、お料理つくったのよ? だからほら、ヒシモチ。食べてくれるわ・よ・ね?」
4人の少女たちが、
にっこりと微笑んだ、
目がちっとも笑っていなかった。

「はい。……食べます」

そうして5人の少女たちの楽しいひなまつりは日暮れまで大いに盛りあがったのだった。


Story : Miyabi Hasegawa
Illustration : Mitsuhiro Arita

開催期間

2015年2月19日(木)17:00頃〜3月5日(木)17:00頃

モーグリの出現場所と飾り付け

イベント期間中、以下のエリアにモーグリが出現します。また、それぞれのエリアには、「ひな壇」が飾り付けられる予定です。

南サンドリア/北サンドリア


バストゥーク鉱山区/バストゥーク商業区


ウィンダス水の区(北側)/ウィンダス森の区


モーグリに話しかけると、ひなまつりにちなんだアイテムを受け取ることができます。