騎士の贈れるもの (2016/02/01)

こんにちは、冒険者のみなさん!
私はサンドリアの王立騎士団に所属しているレーヌといいます。

もうすぐヴァレンティオン・デー。
愛する人への贈り物はもう決めましたか?

この日は、
秘めた想いを命懸けの贈り物に託して恋を成就させたという、
従騎士ヴァレンティオンにちなんだ記念日です。

実は、私の父は王立の歴史研究所で学者をしています。

それは先日のこと。
私は父に頼まれて東ロンフォールのとある家へと向かったのです。
龍王ランペールの墓と王都の間にある石造りのその家は、
オーク族の侵攻がまだそれほど激しくなかった頃の建物なのだそうで、
昔は立派だったのでしょうが、今では廃屋と化しておりました。

父の研究によれば、その屋敷は従騎士ヴァレンティオンに縁のある建物だとか。
その建物のなかで、
父は、「ヴァレンティオンの贈り物」に関する重大な発見をした、

……と信じているのです。

記念日にちなんで、その父の発見のお話。
少し話してみたいと思います。

年明け早々、母が実家に戻ってしまった。

「まったく、あいつは気が短すぎる」
「星芒祭に続いて誕生日まで忘れられたら当然だと思います」
「ぬう。だが、わしとて大事な文献を読まねばならなかったのだからして……」
「改善されない言い訳は聞くだけ無駄かと」
「ぐっ……。お、お前は、わしの娘なのに頭が固いぞ!」
「はい。父さんの娘ですから」
「……」

ちなみに昨年は6度、母は実家に帰っている。
よく離縁しないものだと、娘ながら思うのだ。別れたほうが楽だろうに。
私には理解できない。

「それはそれとして、このような廃屋に歴史的な史料があるものなのですか」
「わしは、この屋敷をヴァレンティオンの別荘に違いないと思っておる」
「ヴァレンティオン……? あの、従騎士ヴァレンティオン?」
「他に同名の歴史的人物がいれば別だが」
「……おとぎ話の人物ではないですか」
「ヴァレンティオンは実在の人物だぞ」
「あれは少女たちが読む浪漫小説のなかの登場人物だとばかり」

そう返したら、父が頭を抱えた。
お前も少女だろ、と言ったのが聞こえた。
はて? 私は何もおかしなことは言っていないと思うのだが。

父は歴史学者だ。
古い史料を見つけると、一晩かけてどころか読み終わるまで読む。
文字通りに寝食を忘れて。

その結果、母の誕生日を忘れ、私の誕生日を忘れ、結婚記念日を忘れ、
ヴァレンティオン・デーも星芒祭も吹っ飛ぶ。

父は建物の1階から順に探索を続け、
2階の箪笥を漁り、絨毯をひっくり返し、絵画の裏を調べ……、
そうして、屋根裏部屋の小さな葛籠(つづら)のなかからそれは見つかった。

「日記だ!」
「誰の?」
「まあ、待て。ほう……ふむふむ、これは……」

従騎士ヴァレンティオンは身分違いの恋を叶えた青年として知られている。
身分違いの恋、とまでは分かっていたが。
問題は恋の相手が誰だったかということだった。
学者の間でも意見が分かれているのだとか。

「うむ。見ろ! これはヴァレンティオンの日記だぞ。
素晴らしい! 伝説の全てが、ここに書かれておる」
「本当ですか……?」

真実ならば大発見なのだが──父を良く知る私としては懐疑的にならざるを得ない。

「相手の女性の名前も書いてある。
ふむふむ。なんと! そういうことだったか!」
「あの……?」
「どうやら、相手は豪商出身で貴族に成りあがった人物の娘だったようだ。
この日記によれば、初めは彼女の護衛として知り合ったらしい」
「護衛……? 何か狙われるような原因が?」
「オークたちの目と鼻の先の森から、ごっそりと兎だの羊だのを取ってきて売ったらしい」
「ああ、なるほど」

それではオークたちを怒らせたのも無理はない。
だからといって、この屋敷がヴァレンティオンのものとは限らないが。

「彼は、オーク族の放った刺客に襲われたようだ」
「刺客に!?」
「奇しくもその日は娘の誕生日だったという。
大勢の客たちが訪れたその日、
タルタルほどの背のボロ布に身を包んだ者が屋敷に紛れ込んだ」

ごくりと私は唾を呑んだ。

「トンベリの暗殺者だ」
「トンベリの!」
「誕生日の宴の最中に襲われたが、
ヴァレンティオンたち護衛の騎士が戦ったために、
主人の命を奪うことはできず、
逃げるために娘を盾にした」
「なんという悪辣な」
「そして、娘はそのまま森に連れ去られたのだという」

なんということだ。

「オークたちは、娘を見せしめのために処刑すると通告してきた」
「ひどい話だ」
「『娘を助けだしてくれた者には褒美を取らせる』と父親は宣言し、
騎士たちはこぞって森へと探索に向かった」

だが、攫われた先がゲルスバだろうとまでは推測できても、
そこはオークどもの要塞。むやみやたらと探し回れる場所でもない。
彼女の命も風前の灯と思われた。

話を聞いていた私は唇を噛み、何百年も前の娘の不遇に思いを馳せた。
さぞや心細かったことだろう。
騎士はどうした。姫君の窮地ならば騎士が駆けつけるものだろう。

「どうやって彼女は助かったのですか?」
「ラノリン、を知っているか?」
「ああ。羊の毛から採れる脂ですね。蝋燭や石鹸の原料になる」
「ゴブリンどもが自分たちのために作るやつはひどい匂いがするが、
人間用として依頼すれば、奴らはそれなりに良い匂いの石鹸を作ってくれる。
当時の貴族たちの間では、
この石鹸を小さな袋に入れて匂い袋にするのが流行していたらしい」

そこまで知っているくせに、父は母に香水の1つも贈ったことがないわけだ。

「な、なぜ、怒っておる!?」
「別に……。
で、それが彼女の行方とどう関係が?」
「彼女は聡明な女性だったようだな。
自分が誘拐されている最中も、
こっそりと匂い袋を行く先々でこすりつけて匂いを残していったらしい」
「ほう……確かに賢い女性ですね」
「このことに気付いたヴァレンティオンは、
犬に同じ匂いを嗅がせて後を追い──」
「ちょっと待ってください。どうして、そんなことに彼は気づけたのですか」
「ふむ。これは推測だが……。
充分な量のラノリンを手に入れるには雄羊の毛がいるだろう?」
「はい」
「ラテーヌの雄羊を倒せるのは、それなりの腕があるものだけだ。
その匂い袋は娘の誕生日に騎士が贈ったものだったのではないだろうか」
「ああ、なるほど」

それならば納得できないこともない。

「単独でオークの棲みかに潜入したヴァレンティオンは、
文字通りの命懸けの探索の末に、娘を助け出したというわけだ」
「よかった!」

私は思わず安堵の息を吐いてしまった。

「……父上、何故にやにや笑っているのです?」
「やはり、こういう話は好きかね?」
「はい?」
「ふむ。自覚はないのか」
「しかし、今気づいたのですが。
話が本当ならば、従騎士ヴァレンティオンの命懸けの贈り物というのは、
ラノリンで作られたゴブリン印の石鹸、ということに?」
「いやまさか」
「ですよね」

私は再度、安堵の息を吐いてしまった。

「おまえくらい好き嫌いがハッキリしておると贈る物に困らないのだがなあ」
「は?」
「いやいや、騎士の贈り物の中身は気になるのだな、と思ってな」
「当然でしょう。
あくまで同じ騎士として興味があるだけですが……。
だから何故にやにや笑っているのです?」
「お前も年頃の少女なのだなぁと思っただけだ」
「父上、私はなんだか不愉快です」
「まあ聞け。
娘を助けたとはいえ、娘が誘拐されたことに対しては護衛騎士たちに責任がある」
「……そうですね」
「娘の父の怒りは収まっておらず、
助け出された後も、騎士たちに厳しい処罰を与えようとした」
「気持ちは分かりますが……」
「護衛騎士たちを庇ったのは娘だった。
自分が助かったのも、騎士たちの活躍あってこそだと主張し、
護衛騎士たちを罰から守ったという」
「それは良かった」
「そのときに娘が言ったそうだよ」

『お父様もお母様も、誕生日には素晴らしい贈り物をくださいました。
貴族のみなさまも、商人の方々も。
感謝しています。
でも、それらは全てお金で買えるものです。

騎士のみなさまは、私にお金で買えないものを贈ってくれたのです』

私は興味を持った。果たして騎士たちの贈り物とは何だろう?

『忠義です。
何ものにも替え難い。命懸けの』

「娘はそう言って父を説得し、
父親は彼女の言葉を認め、騎士の誉として騎士たちを称えることにしたのだという。
そして、娘は最大の功労者であるヴァレンティオンと結ばれた、というわけだ」
父はそう言って話を終えた。


以上が父の研究の最新の成果である。

そこにいくばくかでも真実が含まれているかどうか。
解き明かすにはまだ時間が必要だろう。

私自身は父の研究成果に満足している。

真の騎士とはかくあるべきだと思った。

そう、あくまで騎士として喜んでいるのだ……。
それはまあ。
ヴァレンティオンの逸話に対する少女たちの綺麗な想いが壊れなくて良かった、
とも思うけれど。

半月後に母が戻ってきた。
父がどんな贈り物をして謝ったのかは聞いていない。

Story : Miyabi Hasegawa
Illustration : Mitsuhiro Arita

開催期間

2016年2月5日(金)17:00 〜 2月19日(金)23:59

NPCの恋人探しを手伝おう

まずは、イベント期間中に出現する以下のMoogleから話を聞きましょう。


南サンドリア/北サンドリア


バストゥーク鉱山区/バストゥーク商業区


ウィンダス水の区(北側)/ウィンダス森の区


Moogleは、さまざまな報酬アイテムを用意して皆さんの訪れを待っています。


チョコボの恋人探しを手伝おう

イベント期間中、以下の場所にいるNPCに話しかけるとミニゲームに挑戦できます。

南サンドリア/バストゥーク鉱山区/ウィンダス森の区


ミニゲームをクリアすると、調度品「テンダーブーケ」をはじめ、さまざまなアイテムが手に入ります。