コルセアについて(2006/04/14)

All or Nothing

船から下りたい者は下りてくれ。
この戦いには、名誉も栄光もなく、
この航海は、すべてを得るか、
すべてを失うまで続くだろう……

だが、私は信じている。
たとえ、今は授ける王はなくとも、
君の名誉は友から贈られるだろう。
たとえ、海の藻屑と消えようとも、
君の栄光は友が語り継ぐだろう。

〔コルセア、ルザフの演説より〕

かつて、近東の海で暴れまわっていた勇猛な海賊の末裔を名乗るジョブ。それが「コルセア」である。
キザな三角帽子を頭に乗せ、洒落た外套フラックを羽織り、奇妙な6銃身の短銃ヘキサガンを操る海賊は、皇国軍からは危険な革命組織として追われ、皇都の大衆からは義族として陰で拍手喝采される存在だ。

その悲劇的な歴史と喜劇的な遊技を、ここに紐解こう。


Do or Die

「漆黒の柩」とはよく言ったもんだ。
たった一隻で、海戦は船の数と規模で勝敗が決するという、我が提督の定説も、たった一戦で、最新鋭の兵器を備えた無敵の艦隊という、我が海軍の自負も、海の底に沈めちまいやがったんだ。
確かに、あの船は棺桶だった。
……俺たちのな。

〔アラパゴ海戦に参加した、皇国海軍水兵の手記より〕

200年ほど前、近東にはイフラマド王国という海運国家が栄えていた。しかし、海の支配権を巡って、しばしば王国と対立していたアトルガン皇国は、マムージャ蕃国と手を組み、王国軍の虚をついて侵攻を開始。わずか8日で王都を陥落させてしまった。いわゆる八日戦争である。

当時、留学先のバストゥークから帰国の途にあったルザフ王子は、洋上で王の訃報を受けると、アラパゴ諸島に進路を変更し、そこに臨時政府を設立。王国艦隊の残存艦を糾合し、アトルガン皇国軍に対して熾烈な海のゲリラ戦を開始した。コルセア(私掠海賊)の誕生である。ルザフは、優美で知られた乗船「エボニークィーン号」を戦闘用に改装。名を「ブラックコフィン(漆黒の柩)号」と改め、自らもコルセア船長として活躍したと云う。

神出鬼没のコルセアに対して、当初皇国海軍は敗退を重ね、制海権すら失いかけたほどであった。しかし、皇国軍がコルセアの秘密母港を突き止めると、形勢は逆転した。一計を案じて、港にコルセアを集結させ、そこで一網打尽に壊滅させることに成功したのだ。洋上に出ていたため、ただ1隻残ったブラックコフィン号も、やがて皇国海軍に包囲されて勇戦むなしくルザフと共に海に没したことが報じられた。

だが、それでもコルセアの火は消えなかった。ルザフの死を信じないコルセアの残党は、その後も小さなグループに分かれて、連綿と活動を続けたのだ。そして、現在も誇り高き海賊の末裔として、皇国軍と戦っているのである。


Make or Break

ゲームとバトルは似たようなもんよ。
敵の腹を探り、作戦を決定し、後は幸運の女神と悪運の死神に祈るだけ。
だが、あえて違いを挙げるとすりゃあ戦場でベットするのは、てめえの命。
そう簡単にゃ、フォールドできねぇってこった……

〔縛り首となったコルセア 鉄爪サファーグ(792 - 837)最期の言葉より〕

コルセアとゲームは切っても切れない関係だ。船上での単調な毎日を紛らすため、あるいは活動資金を捻出するため、ときには仲間内の流血沙汰を止めるため、コルセアにとってゲームは重要な役割を果たしてきた。そして、いつしか彼らの間で、そのゲームテクニックを応用した戦技が研究され、
「ファントムロール」(ダイスプレーを起源とする。運命を司るダイスを転がして、友の運勢を操る)や
「クイックドロー」(早撃ち競争に端を発する。単属性を帯びたカードを撃ち抜き、敵に属性弾を撃ちこむ)などの遊技が編み出されていったのも、ある意味、自然な成り行きであった。
「戦闘遊技」とは、常に死と隣り合わせの海上で、いちかばちかの勝負を生き抜いてきた彼らならではの、エキサイティングなゲームと云えるだろう。

いかなる困難や苦境にも挫けない、不屈の闘志。そして、いちかばちかの勝負を乗り切る、天性の強運。
この双方を備える者のみが、大義に命を賭ける者、すなわち「コルセア」となることができるのだ。

Illustration by Mitsuhiro Arita