春になるとウィンダス連邦から各国に贈られてくるサクラの木。
ひらひらと風に舞うピンクの花びらは、見つめていると目まいを起こしそうなほどきれいで、まるで夢の世界にいるかのような気分にさせてくれます。
ちょっとしたイタズラ心だった。しかも、自分がそのイタズラをしでかしたことをずっと忘れていた。
サンドリアの冒険者であるリュシェーンにとって、ウィンダスの聖都は1年ぶりの訪問で、そういえば前の春にこの街でミスラヒシモチの存在を知ったのだった。
ウィンダス鼻の院が開発したというミスラヒシモチは、食べると小さなミスラの女の子の姿になってしまうという魔法のスイーツで……。イタズラ心で食べて姿を変え、街の人々をからかって遊んだっけ。
その子に出会ったのは、太陽が真上に駆けあがった昼過ぎ。タルタルの女の子だった。
サクラの木の下で見るからに楽しそうに遊んでいたのだが、強い風が吹き、花びらといっしょになって毛虫が1匹、彼女の頭にぽとんと落ちたのだ。髪についた虫に悲鳴をあげ、けれど彼女は怖くて手で触れないらしくて、泣きべそをかくばかり。しかたなく毛虫をとってやった。ほんの、気まぐれで。
それをきっかけに、ふたりして遊ぶことになった。子どもの頃にかえったようなたわいない遊びばかりだったけれど、不思議に楽しく時が過ぎていった。
別れ際にまた来年も遊ぼうと指切りをした。女の子の言うところによれば、指切りは東方の約束のしかただという話で、破ったらハリセンボンを呑まなければいけないらしい。アルテパ砂漠にいるサボテンダーの針を1000本!なんという恐ろしい約束だろう。
すっかり忘れていた。だから、そのサクラの木の下に行ったのは単なる偶然だ。
1年ぶりのサクラの木は、記憶どおりの姿でそこに佇んでいて、しかも、思い出どおりの姿であのタルタルの女の子が手を後ろで組んで待っていた。困ったのはリュシェーンのほう。今年はミスラヒシモチを買っていない。迷っているうちに、見つかってしまった。
「あなたは、ひょっとして去年、あたしと遊んでくれた人ですか?」
タルタルの女の子は、そんな不思議な言い方をした。答えに窮していると、小さな少女はにっこりと微笑みながら言ったのだ。
「昨年、あなたと遊んだのはあたしじゃなくてポルルおばあちゃんなんです」
聞けば、ポルルは彼女の曾祖母にあたる女性で、しかも、鼻の院のヒシモチ開発者のひとりなのだという。
「おばあちゃん、若い頃はおまえにそっくりだったんだよ、が口癖なんですよね。それで、去年、子どもの姿になっていたら、ここであなたに出会ったって……」
「どうして、ぼくがあのミスラだと?」
「『きっとあの子はエルヴァーンにちがいないよ』って、おばあちゃん言ってました」
とうてい手の届かないところに当然のように手を伸ばしたり。行動が、とても背の高い人のものだったからだそうだ。そういえばと思い当たるところがある。
これを、と小さな箱を手渡された。各種ヒシモチの詰め合わせだった。
「時には子どもの心をとり戻すことは大切なことだって。でも、あたしもおばあちゃんもまさか男の人とまでは思っていませんでしたけど」と微笑んだ。
そのとき、ふと思ったのだ。なんで、彼女はこの子にヒシモチを託したんだろう、と。
「あの……。まさか彼女は……」
「あなたに会えるのを楽しみにしてたんです。でも、おばあちゃん、結局、ここに来ることはできなくなってしまって……」
息を呑む。まさか──。
「これが最後だからと、東方に新しいお菓子を探しに行ってしまったんです」
──ええっ!?
「そ、そーなの?」
「はい。あ。『もし、来なかったらハリセンボンだから!』って言ってました」
苦笑してしまう。というか、来なかったのは彼女のほうじゃないか!風に吹かれてサクラが散る。1年前の、木の周りをふたりして駆け回ったときの笑い声が耳の奥に蘇った。
「あの」
彼女とそっくりの顔をした少女が言った。
「ま、まだ時間があるようだったら、あたしと遊んでくれませんか!」
答えは決まっていた。ヒシモチを手に取りながら、リュシェーンは「もちろん」と頷く。
今日は女の子のためのお祭りなのだから。
Story : Miyabi Hasegawa Illustration : Mitsuhiro Arita |
開催期間
2010年2月19日(金)17:00頃より、3月3日(水)17:00頃までを予定しています。
モーグリの出現場所と飾り付け
イベント期間中、以下のエリアにモーグリが出現します。
モーグリに話しかけると、ひなまつりにちなんだアイテムを受け取ることができます。
・南サンドリア(J-9)
・北サンドリア(D-8)
・バストゥーク鉱山区(I-9)
・バストゥーク商業区(G-8)
・ウィンダス水の区(北側F-5)
・ウィンダス森の区(K-10)
また、それぞれのエリアには、“ひな壇”などが飾り付けられる予定です。