謹んで新春の御祝詞を申し上げます。

冒険者の皆様の並々ならぬご活躍により
ヴァナ・ディールはまた新たな年を迎えることができました。
開発・運営一同、心より厚く御礼申し上げます。

今年は新たな体制となりましたが、これを機に、
チーム一丸となってこれまで以上に皆様のご意見を賜り
サービスの向上に努めるよう邁進して参りますので、
今後もファイナルファンタジーXIにご期待ください。

Illustration : Mitsuhiro Arita

幸運の兎

「ほんとに、ほんとなのっ？」
息を切らしながら長身痩躯の娘が言った。
エルヴァーンの娘だ。足を止め、うなだれる。両の膝に手をついて呼吸を整えながら、傍らに立ち止まったミスラの相棒を見あげた。
ミスラの娘は、いつもなら頭の左右にぴょんと飛びでる三角の耳を、もこもこした白い帽子の下に押し込んでいた。雪うさぎ帽子だ。頭に載せたもこもこ帽子を撫でながら、相棒がもっちろんと胸を張った。
「だって、聞いたし！」
「信じられないんだけど……」
そう言って、顔をあげ、エルヴァーンの娘は前方を見つめる。ああ、あんなに遠くまで走っていってしまった。追いつけるだろうか。でも、もう足が動かない。くたくただ。
ラテーヌの丘は、ゆるやかに登りと下りを繰り返して目の前に続いている。初春の日差しを浴びて輝く緑の丘を、茶色と白と黒の兎の影が遠く遥かに見えた。
黒い兎だけがやけに大きく見えているのは目の錯覚ではなくて、本当に大きいから。
ウィンダス鼻の院の研究員が、品種改良を重ねて産み出したという巨大黒兎だった。

「幸運の兎、ねぇ……」
いにしえから兎の尻尾はお護りとして有名である。「野兎の尻尾」は幸運を呼ぶと信じられていた。迷信だとの声も多い中、今でも、手に入れると鞄の中にこっそりと入れておく冒険者がいるくらいだ。万が一にも何か良いことがあるんじゃないかと、期待を捨て切れないのだ。何を隠そう私も。と、エルヴァーンの娘はこっそりと思う。幸運は、冒険者にとって必要不可欠なものだし。
で、そんな言い伝えを真に受けて、鼻の院のとある研究員は考えたらしい。
『もっと身体が大きい兎だったら、もっと尻尾も大きいんじゃないかな？　もっと尻尾が大きければ、ひょっとして、もっともっと縁起がいいんじゃないかな？　かな？　かな！』
と。
で、品種改良を続けるうちに、巨大な黒兎を産み出すことに成功した、わけ。
「幸運のおすそわけ、ねぇ……」
遥か彼方を駈けている兎たちは、鼻の院のお勧めする、でっかい幸運をもたらす──かもしれない──兎たちなのだった。あの尻尾に触れば、ご利益がある、と。
「さあ、もういっちょ頑張って、兎たちから幸運を授かろうよ！」
相棒のミスラの娘に言われ、エルヴァーンの娘はひとつ息を吐いてから背を伸ばした。
仕方ない。もう少し、この元気娘に付き合うとしよう。
「行きますか！」
今年も、きっと長い付き合いになる冒険の友との、年の始めの最初のお付き合いなのだ。

一緒に頑張れることがそもそも幸運なのかもしれないな。

エルヴァーンの娘は兎たちに向かって駆け出しながら、ちらっとそんなことを考える。
柔らかい日差しが丘の緑を輝かせている新しい年の午後だった。

Story : Miyabi Hasegawa

開催期間

本イベントは2011年1月1日(土)0:00頃より、1月17日(月)17:00頃までを予定しています。