願いを掛けた笹の下で (2011/06/20)

遠い昔、悲劇の恋に終わったヤヒコ皇子とアムディナ姫。
天に昇り、銀河をはさんで輝く2つの星になったとされる2人が、今度こそ結ばれますように、と願いを込めて開かれるようになった祭りが「銀河祭」です。
今年もヴァナ・ディールでは皇子と姫に扮した役者たちが野外劇を行っています。

もしかしたら、劇を応援してくれる冒険者たちの中にも、うまくいきそうでいかない、もどかしい2人がいるのかもしれません。

ひどい目にあった、と思いながら、エナは浴衣の帯を撫でる。
あの融通きかないモコモコ白毛のかわいい生き物め!
薄い桃色に紫を重ねた東方の着物は、木綿の一重で出来ている。涼しくて良いのだが、やりすぎなくらいに帯を絞られた、「キレイって苦しいものクポ!」とか言って。
「いっけない。そろそろ始まっちゃう」
裾を気にしつつも、商業区の噴水前へとエナは駆ける。石畳が鳴った。

噴水前は、浴衣を着て腰に団扇を差した人々で賑わっていた。
銀河祭の目玉の出し物──ヤヒコ皇子とアムディナ姫の劇が始まるのだ。

「ユーリ、まだなのかな?」
あたりに視線を巡らすたびに、エナのどきどきが高まってきた。
昨夏の終わりに手に入れたから、この女草浴衣で彼と会うのは初めてだ。
そして……最後になるかもしれない。
「アビセア、かぁ」
彼女の技量では彼の地で戦い抜くことはまだできない。もっともっと白魔道士として経験を積まない限りは。

劇が始まってしまった。
今年のアムディナ姫役の女性は、きれいな人だけれども、ちょっと自信なさげで、白皙の美貌をもつ皇子役に対して一歩引いてしまっている。
台詞のやりとりも少しずつ遅れてしまい、滞りがちだ。
その姿が自分と重なった。
がんばれ!思わずエナは応援してしまう。

「あ、あれ?」
劇が続いているというのに皇子役に近づいてゆく女がいる。
皇子役の男をどこかへ引っ張ってゆこうとしているではないか。
なのに姫役の役者ときたら、立ち尽くすばかりだ。
もっと、勇気を出しなさいよっ!
姫を励まし皇子を叱咤しようと、エナは人の輪の前に飛び出たところで気づいてしまった。
あたしも同じじゃないか。

怯んでしまったエナの耳に、恋愛劇には不似合いなポンポンという場違いに明るい音が聞こえてくる。
無鉄砲、と呼ばれる5連発の打ち上げ花火。
観客たちの視線が一瞬だけ空へと向かう。
そのときだ。
それまで立ち尽くしていたアムディナ姫が叫んだのだ。

「ヤ、ヤヒコさま!ほら、追っ手の大砲の音が!このままでは捕らえられて二度と会うことは叶いませぬ。わ、私のことをまだ好きでいてくださるならば──」

精一杯の勇気を振り絞った顔はリンゴのように真っ赤だった。
皇子が姫の勇気に、意外そうな顔になり、じっと彼女を見つめた。
エナも、観客たちも、ちょっかいをかけてきた女さえ、息を止めたまま見守る。
皇子の手が伸びて姫の手を取った。そのまま抱きしめる。
喝采が起こり、劇は元通りに続いていった。

「エナ!」
声に振り返るとユーリがいた。
「遅れてごめんな。この人ごみだから君を探すのに時間がかかってさ」
彼の手には、花火の燃えカスが握られている。
「あなただったの……ユーリ」
「なんか、劇が変な雰囲気だったから……つい、空気を変えようかと」
「劇が台無しになったらどうするところだったのよ、もう!」
「うまくいったじゃん!」
お気楽に言って、「出店を巡ろうぜ」と歩き出そうとするユーリの浴衣の袖をエナは掴む。
「えと……ちょっと、話があるんだけど」
皇子と姫の劇がエナにも勇気を与えてくれる。
2人で巡る夏祭りを今年で最後にしないために……。

願いを掛けた笹の葉が吹き抜ける午後の風に揺れていた。


Story : Miyabi Hasegawa
Illustration : Mitsuhiro Arita

開催期間

銀河祭は2011年6月27日(月) 17:00頃から7月11日(月) 17:00頃までを予定しています。

モーグリの出現場所

モーグリに話しかけると、イベント内容を聞くことができます。

北サンドリア(D-8)/バストゥーク商業区(G-8)/ウィンダス水の区(北側)(F-5)