UMAについて (2006/09/27)

動物のお姉さんアテルーネ 〜獣人ポロッゴ族の話〜

突然ですが、
ここからは“動物のお姉さん”アテルーネの時間です。
動物好きの坊やたち、また会えて嬉しいわ。

実は今、うちのセンセこと生物学者クラボエール男爵が、いろいろあって近東に滞在しているのだけど、どうやら現地で素晴らしい発見をしたみたいなのよ。
昨日届いたばかりの手紙を紹介するわね。


我が助手アテルーネよ、聞いて驚くがよい!
なんと、アレが生き延びている可能性が出てきた! 同封のスケッチを見るがよい。

これは、獣人の旧友パブージャの家近くで、昨日わしが発見した足跡じゃ!
ぱっと見た感じはトードの足型のようじゃが、注目すべきは前肢の足跡がないこと……あとはもう分かるな?
そう、つまりアレの子孫が残した足跡に相違ないのじゃ。
ここまできたら、わしゃこの目で生きたアレを見るまで戻らんぞ。研究室のことは、引き続き頼んだ!



やだ、もぉ……。なんて愛らしい足跡なの?
――え、“アレ”ってなにかって? アレっていったら、決まっているじゃないの。獣人“ポロッゴ”ちゃんのことよ。
童話『蛙姫(かわずひめ)』のヒロインといえば、わかるかしら? ほら、タルタルの美少年を魔法でさらってきて自分の婿にしてしまった、わがままで面食いな蛙のお姫様で、なんと最後には――まあ、いいわ。

というわけで、今回のテーマは、この“ポロッゴ”ちゃん。水辺に棲む“トード(ひきがえる)”に似た外見をもつとされる未確認動物、すなわちUMAよ!
――あぁら、そんなに目をキラキラさせちゃって。みんな、かわいいわね。


では、本題に入ります。
少し前に、目の院の禁書室から1冊の古文書が発見されて、新聞にも取り上げられたわよね。これが、何百年もの間、強力な魔法で封印されていた“いわくつき”の史書なのだけど、なんとそこにポロッゴちゃんに関する信憑性の高い記述も残されていたの。それは、大魔法時代の章。ウィンダスの異端児サマリリちゃんが引き起こした国家犯罪について記した項よ。

記述によると、この世間知らずのお嬢ちゃんは、いつも水の区の路上で踏みつぶされているトードたちを哀れんで、禁呪で彼らの身体を巨大化させ、後ろ肢で立って歩く獣人ポロッゴにしてあげたそうよ。
そればかりか、人の言葉と、当時はまだタルタルの専売特許だった魔法まで与えたんですって……!
「アハハ……これで、あなたたちも人間。私たちの兄弟姉妹よ」ってね。








こうして、市民権を認められたポロッゴちゃんたちは平和に暮らしました。めでたし、めでたし
――なわけがないわ。

突如、獣人だらけになった街は大パニック!


この事態を収拾するために軍隊まで駆り出す大掛かりな掃討作戦が実行されて、ポロッゴちゃんたちはすべて駆除されたという話よ。

――ここまで、わかったわよね?
童話でおなじみのポロッゴちゃんは、架空の動物などではなかった。禁呪によって突然変異的に誕生させられ、たった数日で絶滅に追いやられた、かわいそうな獣人だったのよ。

さて、そのポロッゴちゃん誕生の秘話を知って、それこそ当時の水の区の住民並みに大パニックに陥った人がいたわ。それは他でもない、うちのセンセ、クラボエール男爵よ……。

あれは、今を遡ること数年前。水の区で発掘調査した時のことよ。センセは数百年前の地層から大量の奇妙な動物の骨を発見して、その研究成果をジュノの学会で発表していたの。

『ウィンダス水の区より大量に出土した動物の骨は、当初トードの大型種と思われたが、骨格復元の結果、まったく別種の未知なる動物であることが判明した。

この動物の骨格は、基本構造こそトードに酷似しているが、その四肢の形状は微妙に異なっていた。その後肢は人間と同様に二足歩行できる構造を有している上、前肢の指は拇指対抗性まで獲得していたようだ。しかも、頭骨はトードのそれとは比較にならないほど巨大な脳容積を誇っている。おそらく、この未知なる動物は、当時乾燥化の著しかったサルタバルタの環境に合わせるため、長い時間をかけてトードが肉体を変化させた結果、誕生したのである』


ちなみにセンセは、この未知なる動物に“ポロッゴ”と名づけたの。そう、骨をもとに復元した動物の姿が、童話に登場するエキセントリックな蛙の姫、ポロッゴそのものだったからよ!

当然、他の学者たちは笑い飛ばしたわ。「UMAの議論なら、よそでやってくれたまえ」とか、「生物は時間をかけて変化するという、君のいつもの説では、トードとポロッゴが同じ地層から発見された理由を説明できまい?」とか。

もちろん、センセ自身も矛盾があることは認めていたの。それでも自分の仮説が正しいことを信じていたから、その学会以来、決定的な証拠を探しつづけてきたのよ。
仮説の立証になによりも必要となる、両方の中間に位置するもの――トードからポロッゴちゃんへの変化を裏付けてくれる、第3、第4の動物の痕跡――をね。

センセは、生物学者としての意地をかけていたのね。だから例の古文書が発見されたとき、相当なショックを受けたようよ。矛盾は解けたとはいえ、ずっと探し求めていた真実がタルタルの禁呪ときては、センセの全学説を否定されたようなものだもの……。
突然近東に旅立ってしまったのは、この件が原因だったのよ。ふふ、うちのセンセって案外かわいいでしょう?

ということで、今回はここまで。
――なぁに? 足跡・古文書・謎の化石の3点セットでも満足できないの? 仕方のないコたちね。

センセに送るために、苦労して闇ルートから入手したものだけど……。いいわ、ご覧なさい!
これが、近東の特殊な記録装置がとらえたという、ポロッゴちゃんらしきUMAの姿よ!!


これ以上おねだりしても、なにも出ないわよ。
そんなに気になるなら、ナマのポロッゴちゃんを探しにいってらっしゃい?
それが私からの宿題よ……!


Illustration by Mitsuhiro Arita